女子ジャンプの最前線で活躍する日本人女性=FISコーディネーター 吉田千賀氏インタビュー

小林幸帆
「女子ジャンプ・コーディネーターとして白羽の矢が立った理由に思い当たることは?」の私の問いに「単に女だったからじゃないかな〜」と笑顔でかわした吉田さん。しかし、学生時代に吉田さんのもと、W杯白馬大会の手伝いを経験したことのある私からすれば、一目で「任せて安心」と分かる吉田さんの抜てきは、「見事な人選」としかいいようがない。スキーというヨーロッパを中心に回っている(ように見える)世界で、日本人女性として大役をこなしている吉田さんには、かつての頼もしさをさらにパワーアップし、オーラをまとっているようにさえ感じた。

「双方の意見を調整してベストな解決策を見つける、それが私の仕事」

今年7月、コーディネーターを務めたオーストリアでの男子FIS CUP(W杯、コンチ杯に続く位置づけの大会)で。スロベニア人のテクニカル・ディレクターと試合進行を確認する 【吉田千賀氏提供】

――その初登板、どうでしたか?

 大変でした(笑)。ノルディック複合のコンチ杯と一緒だったのですが、天候不順が予想されていたことから始まって、キャンセルうんぬん、順序変更などもありましたし。そして私も初めてだったので、各国コーチも私を「どんなやつなんだ?」という感じで、お互いが腹の探りあいでした。良い大会にしたいという思いは一緒なので、選手たちとうまくコミュニケーションを取らなければならない、そこで信頼関係を築かなければという思いがありました。最初が肝心と思っていたので、けっこう大変でしたよ(笑)。

――試合中は具体的にどのような仕事を?

 試合中に何もなければマテリアル(用具)コントロール(スーツや板が規定に沿っているかの検査)が主な仕事となります。私は日本チームで装備担当でもあったので、その辺は詳しかったといえば詳しかったですね。あとは現場と大会運営組織委員との橋渡し、試合マネージメントです。一方は試合を続行をしたいのに他方は試合の中断を要求することがあったりと、時として現場(レース運営)と大会運営(開催者)で意見が分かれてしまうことがあります。そういう時に双方の意見を調整してベストな解決策を見つける、それが私の仕事です。

――やっていて面白い点、そして大変な点は?

 スタッフ、審判、選手、大会運営側と、みんなが良い大会だったと満足できた時はうれしいですね。逆に大変なのは、やはり天気です。選手が大事なので、やきもきもしますし。とにかく安全に試合が遂行できるよう、関係者みんなで確認しながらやっています。大変ではありますが……でも、やはり楽しいです!

――なんとなくスキー界はヨーロッパ人が幅を利かせていて、日本人は不利というようなイメージがあります。そういう中で日本人として上に立つというのは簡単ではないようにも思えます

 「日本人に不利」って思いますよね? 私も以前は微妙にそう思っていましたが、決定権はFISではなく各国による会合で決まります。自分がFISの端くれに加えてもらっていろいろなアイディアを出していく中で「この人たちは本当にジャンプというスポーツ全体のことだけを考えているんだな」と分かりました。誰かが得をして誰かが不利になるとか、そんな小さいことは考えておらず、この競技がどうやったら良くなるのか、ということだけを考えているんですよね。どの国も自国を有利にしたいからこそコミュニケーションがとても大事になってきます。

女子ジャンプ界の未来

今年1月のジュニア世界選手権(ヒンターツァーテン/ドイツ)。大雪によるスケジュール変更を受けジュリーと協議の真っ最中 【Ladies-Skijumping.com】

――現在、女子ジャンプは何カ国くらい参加しているのでしょう

 15カ国くらいですかね。常に参加する国もあれば、そうでない国もあります。ポーランドのように昨季は出てきたけれど今季は出てきていないという国もあります。この夏のコンチではルーマニアの選手が初参加しました。13歳の選手でしたがとても上手でしたよ。参加国数は着々と増えているかもしれませんね。

――ノルウェーのように、女子ジャンプ選手がスターとなっている国もあります

 ジャンプが大好きなお国柄のノルウェー、それからドイツのように女子ジャンプ選手が人気者という国もありますが、やはりコンチ杯はテレビ放映がないので国民的なアイドルとなるにはなかなか時間がかかるかもしれません。でも、来季からはW杯ということで各開催地の運営組織委員会もテレビ映像の製作が義務となるので、女子ジャンプもテレビで見られるようになりますよね。

――日本の女子ジャンプはどうですか?

 日本女子ジャンプは最初から参加しており、伝統があります。選手層から見るとドイツ、オーストリアに続いて多いのではないでしょうか。面白いことに私は男子の場合は日本チームについているので日本をよく見てしまうんですけど、女子だとFISの立場で見てしまうんですよね。でも、やはり日本の選手が勝ったり表彰台に乗ったりするとすごく嬉しいです。特に今は若い子、高梨沙羅選手(上川中2年)、伊藤有希選手(下川商1年)らが、渡瀬あゆみ選手(神戸クリニック)などベテラン選手に追いつき追い越せと頑張っているので、これからですね。

――ここまで夏4戦を終えてどうですか?

 とても良い大会になったと思います。昨年は私も初めてで、お互いに相手を探っていた状態でしたけど、今年は去年の改善点を真剣にとらえてくれていた。その結果が好大会につながりました。

――今シーズンに向けて目標などありますか?

 まずは、常に女子ジャンプが良くなるようにと考えています。来季からW杯開催が決まっているので、それに向けて全体的なレベルアップしていかねばなりません。そのためには、誰かがではなくて皆が同じ意識を持っていかなければなりません。大会開催にあたり運営組織委員会が重要なのは当然ですけれど、各国スキー連盟が女子ジャンプに力を入れてくれることも大事です。来季からのW杯に関してはハードルを高く設定しすぎないようにしながら、ステップバイステップで良いものにしていきたい。

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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