大宮、3トップの最良のバランスを求めて=ラファエル、イ・チョンス、石原の同時起用へ

土地将靖

天皇杯で見え始めた光明

石原(写真)はイ・チョンス、ラファエルとの連係に少しずつ好感触を得ている 【写真提供:大宮アルディージャ】

 C大阪戦の翌週は、リーグ戦ではなく天皇杯が行なわれた。初戦となる2回戦の相手は、四国社会人リーグ所属のカマタマーレ讃岐。Jリーグとは異なる大会、相手は格下の地域リーグという状況下からか、指揮官はついに決断を下す。ラファエル、イ・チョンス、石原の同時先発起用である。
「とにかく点を取れる選手を多くピッチに置きたい」
 鈴木監督は3人同時起用の意図をそう語る。FWが3人ということで、その布陣に注目が集まった。だが、藤本主税の出場停止もあってラファエルは中盤に下がり、イ・チョンスと石原の2トップとなる4−4−2で大宮は試合をスタートした。

 攻撃時はほぼ完全に3トップ。3人が同時にゴールに向かう場面は迫力満点。コンビネーションという面ではまだまだだったが、中央と両サイドのそれぞれにボールキープできるプレーヤーがいて、そこを起点にまた次の攻撃が展開される好循環がプレーに見え始めた。
 3人の中で唯一得点のなかった石原も「きょうの布陣はやりやすかった」と歓迎する。「ラファエルが攻め残っているときは、どちらかが戻ろうとイ・チョンスと話していたが、なかなか戻れなかった。J1相手にうまくいくか、厳しいかもしれないが試してみたい」と課題を口にしながらも好感触を得たようだ。

 個人技ではあったが、イ・チョンスが移籍後初となる公式戦でのゴールを挙げたことも好材料だ。「格下相手だったから」という声ももちろんあるだろう。だが、1つのきっかけにはなり得る。周囲からの期待という重圧、打っても決まらなかった呪縛(じゅばく)から解放されることで、今後は精神的にもいい状態で試合に臨めるようになるはずだ。

連係強化と求められる結果

 攻撃陣の大きな変化に伴い、今後は中盤でも競争に拍車がかかるだろう。もしラファエル、イ・チョンス、石原の3人がレギュラーとなれば、純然たる中盤の選手の出場枠は4から3に減ることになるのだ。
 2枚のボランチとアタッカー1人という組み合わせか、それとも3ボランチ気味に3枚のMFを並べるのか。全体の布陣をどうするのかにもよるが、選択される選手のタイプも変わってくることになる。

 鈴木監督は、どうしても新加入のイ・ホを中心選手に育てたいようだ。当初から「守備力や中盤でボールを動かすところではかなり力がある」とその実力を認め、練習だけでなく公式戦に出場させてコンディションと連係を高めさせようとしている。
 ベガルタ仙台戦、C大阪戦と悪いプレーが目立ってしまっただけに、連敗の戦犯のようにもとらえられてしまっているが、そのポテンシャルはやはり高い。徐々にではあるが、その大きな体を生かした当たりの強い守備や、大きくボールを動かす展開力を見せ始めている。

 そもそも、ワールドカップ前にUAE(アラブ首長国連邦)リーグが終了し、イ・ホはその後ほとんど何もしていなかったような状態だった。それで、すぐに活躍しろというのも無理がある。コンディションが上がり、周囲の選手との連係が高まれば、おのずとその実力が発揮されるはずだ。
 イ・ホがトップコンディションになれば、ボランチでは金澤慎、青木拓矢との競争があり、そこに藤本や橋本早十、市川といったアタッカー陣が加わることになる。個の競争、そして、組織としてのハーモニーを奏でる組み合わせを生み出せるかどうかがカギとなってくる。

 チームの現状について鈴木監督は、「大枠では、何をやらなくてはいけないのか、個々の役割、ポジションでの役割というのはみんな分かってきている。それがチームとしてうまく機能していかないと、勝ち点を取るには難しい」と語る。それにはやはり、実戦を積み重ねていくことが不可欠である。
 3人のFWの共存しかり、中盤の構成しかり。当然、実戦を修練の場と兼ねることにより、いくつか勝ち点を失うこともあるかもしれない。もちろん、「時間はかかるかもしれないが、結果も出さなければいけない」と、それでは駄目なことは指揮官も認識済みである。

 ここからは、11月の終盤を除き、週1回の公式戦というインターバルがシーズン終了まで続く。コンディショニングに終始せざるを得なかった夏場の連戦時期とは異なり、試合をし、次の1週間で課題を修正して連係を高め、次の試合へ臨む、というルーティンで進めていくことができる。上位陣との試合が続くが、チームの組織力を一気に高め、自分たちの成長の度合いを測る絶好の機会である。
 個々の選手の能力はいまさら説明する余地はない。その選手たちがピッチ上でどのようなアンサンブルを奏でるのか。まずは11日の第22節、ホームのNACK5スタジアム大宮で、岡崎慎司、藤本淳吾といった日本代表選手を擁する清水エスパルスを迎え撃つ姿を見届けたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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