「育成のジェフ」復活へ、下部組織の改革から1年半=高円宮杯 千葉U-18 5−1 立正大淞南

鈴木智之

阿部、佐藤兄弟らに続く選手を

立正大淞南に大勝した千葉U−18 【鈴木智之】

「育成のジェフ」復活に向けて、ジェフユナイテッド千葉の下部組織(アカデミー)が、大きく変わりつつある。

 かつて、育成に長けたJクラブと言えば、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島、東京ヴェルディ、そして千葉だった。千葉は阿部勇樹(レスター)を筆頭に、佐藤寿人(広島)、佐藤勇人(千葉)、山岸智(広島)など、後の日本代表選手を多数輩出してきた。
 現在も前述の3クラブはトップへとタレントを次々に送り込んでいるが、ジェフはその流れがぱったりと止まってしまった。下部組織からトップに定着した選手は、2003年の工藤浩平を最後に、誰もいない。

 この現状を打破すべく、下部組織の改革が始まったのが09年だった。

 まず、阿部や佐藤兄弟をはじめ、工藤や中後雅喜、岡本昌弘ら、トップでプレーする選手をユース時代に指導した大木誠を現場に復帰させ、かつて千葉のリザーブズで指揮を執っていた朴才絃(08年に名古屋グランパスU18を率いて高円宮杯全日本ユース準優勝)を呼び戻した。

 翌10年には朴を「アカデミー育成マネジャー」として、育成のトップに任命。さらにはU−18のコーチに菅澤大我を迎え入れた。菅澤はかつて東京Vのジュニア、ジュニアユースを率いて日本一になり、森本貴幸にストライカーのイロハをたたき込んだ人物である。現在ブレーク中の小林祐希や高木兄弟、高野光司らを発掘し、現東京Vユースの基礎を築き上げたことでも有名だ。

 東京Vで育成年代のタイトルを総なめにした後、名古屋に移籍すると、U−15の監督としてクラブユース選手権で優勝。09年に指揮を執った京都U−18では、就任1年目でクラブユース選手権ベスト4に導くなど、育成年代屈指の指導者として知られている。

 育成のスペシャリストがそろった千葉U−18は今季、激戦区のプリンスリーグ関東を4勝4分け3敗の成績で乗り切り、7位入賞。繰り上げながら、高円宮杯全日本ユース(U−18)の出場権を手に入れた。アカデミーを統括する朴は「ピッチの外をオーガナイズする大木と、技術・戦術を担当する菅澤の関係性がうまくいっているのが大きい」と、手応えを口にする。

教育者とサッカーコーチが相乗効果をもたらす

育成のジェフ復活へ、菅澤コーチ(写真)らが千葉に集まった 【鈴木智之】

 育成年代の指導者は2つのタイプに分けられる。1つが教育者タイプ。もう1つがサッカーコーチタイプである。

 大木は元教員の経歴を持つ、教育者タイプの指導者だ。ユース時代に指導を受けた工藤は「大木さんは厳しかったですね。勉強との両立について厳しく言われましたし、担任の先生と一緒に授業の様子を見ていたこともありました」と振り返る。その話を大木にぶつけると、「工藤は勉強をしないから、練習前にクラブハウスで勉強をさせたこともありました。わたしは授業参観にも行ったんですよ」と人懐っこい笑みを浮かべる。

 一方の菅澤はサッカーコーチタイプだ。名古屋時代に同僚だった朴は「菅澤は若くて優秀なコーチ」と、その指導力に太鼓判を押す。教育者タイプの大木とサッカーコーチタイプの菅澤。異なるキャラクターを持つ2人が長所を出し合い、チームにプラスの相乗効果をもたらしている。

 4日に開幕した高円宮杯では、立正大淞南を相手に5−1と完勝。千葉U−18が目指す「状況型サッカー」(菅澤)を披露し、「今年の淞南は強い」と関係者が口をそろえる島根の雄に対して、何もさせなかった。
 菅澤が標榜(ひょうぼう)する状況型サッカーとは次のようなものだ。「速攻と遅攻を使い分け、相手の嫌なところへポジションを取って攻撃を仕掛けていく。守備ではプレッシャーをかける場面と下がってブロックを作る場面を使い分け、相手を見てプレーを変えていく」(菅澤)。

 菅澤は育成年代でよく言われる「組織か個」かという、二択で割り切れるチームを作る気は毛頭ない。個にチーム戦術と個人戦術をたたき込み、相手の出方に対応しながら、各自のストロングポイントを発揮するチームを作ろうとしている。練習時からポジショニングなど緻密な要求を繰り返し、「選手たちは頭も体もクタクタになっていますよ」と眼鏡の奥を光らせる。

 選手たちは、菅澤の高度な要求を理解し、実践していくことで、サッカー選手としての成長を実感している。立正大淞南戦で2ゴールを挙げたキャプテンの板倉直紀は「約束事やセオリーがたくさんあって大変ですけど、今はサッカーが楽しいです。毎日みんなと話し合って、最近は自分たちから『こうやればいいんじゃない?』という意見が出るようになってきました。チームとしても個人としても、成長していると思います」と、充実した顔を見せる。

 下部組織の変革を唱えてから1年半が経過した。「育成のジェフ」復活の萌芽は見えつつある。中学3年生ながら、飛び級でU−18のレギュラーを獲得した和田凌や、独特のセンスと繊細なボールタッチが光る井出遥也(高2)など、楽しみな素材はいる。

 育成はそう簡単に成果が出るものではない。朴アカデミー育成マネジャーも「3〜6年のスパンで考えている」と話すが、この指導体制を継続することができたら、そう遠くはない未来に、大輪の花を咲かせることができるだろう。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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