王者・興南の強さの源は意識の高さ=タジケンの甲子園リポート2010

田尻賢誉

昨夏の失敗は繰り返さない

 準備は万端だった。
 昨夏の甲子園。開幕2試合目に登場した興南高ナインは苦い経験をした。明豊高相手に5回まで3対0とリードしながらサヨナラ負け。エース・島袋洋奨は5回まで2安打投球だったが、6回以降に7安打を浴びて4失点。137球を投じ、明らかなスタミナ切れが原因だった。打線も3点は奪ったものの、5安打しか打てず。そのうち2本は内野安打とさびしい内容だった。
 同じ失敗は繰り返さない――。
 夏の大会前、我喜屋優監督はこんな話をしていた。
「甲子園はリニューアルされて室内練習場が涼しくなったでしょう。室内では冷房が22〜23度に設定されてるんです。それなのに、グラウンドに出ると35度もある。一気に汗をかくんです。バットも振れないし、あれには失敗しました。昔は暑いまま寝てたけど、今はクーラーをつけるでしょう。沖縄の子より、内地の子の方が暑さに強い。普段ももわっとした内地の暑さの中でやってますからね。暑さの質が違う。次に出るときは対策を考えますよ」
 そのひとつが、雨合羽を着ての練習。甲子園出場が決まると、沖縄の太陽の下、ユニホームの下に冬場の練習で着る“Vジャン”と同じぐらいの厚さの雨合羽を着こんで練習をした。
「暑かったです(笑)。大阪に来たときの第一印象がむしむしした暑さだったんですけど、雨合羽を着たときと似た暑さでした」(島袋)
 そのほかにも準備は怠らない。まずは長袖アンダーシャツの着用。練習でも、開会式でも全員が長袖を着た。
「普段からなるべく暑くしようということと、直射日光から守るということ。それと、長袖は発汗を抑える効果があるんです。半袖だと一気に汗が出てバテてしまいますが、長袖なら徐々に汗が出る。効果はあるか分からないけど、準備はしておくということです」(我喜屋監督)

暑さ対策が功を奏す

 試合前のアップまでは全員が長袖を着用。試合では袖の長さは各自に任されるが、島袋をはじめ、砂川大樹、川満昴弥、高良一輝、山川大輔、名嘉眞武人とバッテリーは全員が長袖。その他にも伊礼伸也、池村友行が長袖、大城滉二、銘苅圭介が七分袖を着用していた。
「普段から長袖でやっているので暑さに慣れてきました。守ってても暑さに対応できます。それと、前は(走者に出て)走ると呼吸が激しくなったりしたんですけど、それもなくなりました」(銘苅)
 試合前の室内練習場でのアップでは冷房の温度を変更。22〜23度に設定されているのを25〜26度に上げ、少しでもグラウンドとの気温差を少なくするようにしている。「室内に入るとひんやりした感じがするんですよね。あんまり冷えすぎないように、かといって暑すぎてバテないようにしています」(真栄田聡部長)
 もちろん、宿舎でも就寝時には冷房を切ることが義務付けられている。
 昨年の2年生から3年生になり、体力や技術が向上したこともあるが、島袋は調子が良くないながらも、初戦の鳴門高戦で7回を115球ゼロ封。2回戦の明徳義塾高戦も7回に3者連続三振を奪うなど、6回以降は1安打しか許さず、126球で危なげなく完投した。打線も初戦で毎回の15安打、2回戦も3回以外毎回の13安打。暑さ対策が功を奏し、バットが振れている。
 同じ失敗を繰り返さない。
 準備は万端。
 意識の高さこそ、強さの源。センバツ王者に死角は見当たらない。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント