マラドーナはブラジルでも指揮を執るのか=AFAの奇妙な監督続投要請

グロンドーナの意図

クリスティーナ・キルチネル大統領(中央)はマラドーナ(右)の続投を支持している(左はグロンドーナ) 【Photo:ロイター/アフロ】

 グロンドーナはマラドーナの監督としての能力を信用していないと思われるが、それでも4年間の契約延長のオファーをしようとしているという事実は、11年に自国開催されるコパ・アメリカ(南米選手権)で、再びアルゼンチンが負ける危機にさらされることを意味する(すでにアルゼンチンは86年W杯を制した翌年、母国で行われたコパ・アメリカで4位に甘んじるという経験をしている)。

 グロンドーナの意図を読み取るならば、政府の立場を悪くしないため、と言えるだろうか。失意の中でアルゼンチン代表が帰国した際には、空港に駆け付けた約1万人のファンが指揮官の続投を要望するなど、国民のマラドーナ人気はいまだ根強いものがある。先に述べたようにクリスティーナはマラドーナの留任を支持しており、そこには大きな期待が存在するのだ。AFAも、公共放送のカナル7によってもたらされる莫大な放映権料から大きな恩恵を受けている。

 今年の9月で79歳になるグロンドーナは、もう31年もAFAの会長に君臨しており、「最後の花道をブエノスアイレスで飾りたい」と自らの夢を語っている。すなわち、11年に母国で開催されるコパ・アメリカでアルゼンチンが優勝するのを見届け、会長の職を息子のフリオ・ジュニアに譲りたいと考えているのだ。末っ子のフリオ・リカルドは現在、アルセナルFCの会長を務めている(グロンドーナには2人の息子と1人の娘がいる)。

マラドーナの続投は……

“狡猾な”グロンドーナはサッカーも政治抜きには存在しないことをよく分かっている。今日はこちらの方向と思っても、明日は別の方向を向いていることなどざらである。また、AFA会長は自分の好き嫌いについても明確で、好まない人物を監督やスタッフに入れることはあり得ない。マラドーナは監督就任時にオスカル・ルジェリをアシスタントコーチとして希望したが、グロンドーナは94年W杯のころから犬猿の仲であるルジェリの入閣については、頑として首を縦に振らなかった。
 だが、南アフリカにルジェリの姿はあった。今回もグロンドーナに盾突き、テレビのリポーターとして現地入りしていたのだ。そして、アルゼンチン代表が合宿を張っていたプレトリアに足しげく通い、マラドーナに戦術面での影響を及ぼしていた。4人のセンターバックで最終ラインを構成するというアイデアもルジェリのものである。

 だが、それを知りながらグロンドーナは何も言わなかった。ここで事を荒立てるのは得策ではないと考えたのかもしれない。11年には大統領選が行われ、政府とAFAとの関係もすべて変わるかもしれない、あるいはアルゼンチン代表は自国でのコパ・アメリカで優勝できないかもしれない……。つまり、グロンドーナはすべてを流れのままに任せるという賭けに出たのだ。
 グロンドーナは常に「すべては移ろう」と刻まれた指輪をはめている。だが、数カ月前からは、指輪に小さなチェーンをつけた。そこには「何かは残る」と記されている。

 近日中には、マラドーナの4年間の契約延長の発表が行われる可能性があるだろう。だが、それが現実のものとなるかは、時間と状況が教えてくれるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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