手に入りそうな“攻撃的で楽しいサッカー”=大宮、手応えとともに再スタート
新たな戦いへ 嬬恋キャンプで汗
サイドハーフにコンバートされた市川は「チャンスを生かしていかなきゃ」 【写真提供:大宮アルディージャ】
ファイナルでの試合終了のホイッスル、それはすなわち、4年後への戦いの号砲である。各国は「次こそ」と代表チーム強化をスタートさせる。日本も同じ。やがて新たな代表監督が就任し、そのコンセプトに沿った選手が選出され、トレーニングキャンプと強化試合を繰り返してチーム強化を進めていく。
個人レベルに目を向ければ、横一線での再スタートが切られる。南アフリカ大会でレギュラーだった者も、ベンチに座り続けた者も、代表メンバーに選ばれなかった者も同じ。新監督の下では、これまでのアドバンテージなど一掃される。今後、日ごろのプレーが評価されていくのだ。
日ごろとは――所属するクラブチームでのプレー、Jリーグである。14日にアジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場チームの未消化試合で再スタートを切ったJリーグ。それは2014年、「王国」ブラジルへの切符を懸けた戦いのスタートでもある。
どの選手もどのクラブも同じ。順位やカテゴリーの違いは関係ない。それは、リーグ戦序盤に苦しみ、J2降格圏内にあえぐ中で監督交代という荒療治に踏み切った大宮アルディージャの選手たちも、同様なのである。
もっとも、当の選手たちには、そんなことは頭の片隅にもない。
「W杯なんて、もうしんどくて見れないですよ。それどころじゃない(笑)」
大宮の夏の恒例、群馬県嬬恋村でのキャンプ中、深谷友基はそう笑った。キャンプ中の選手に、深夜のテレビ観戦の余力はない。午前はフィジカルトレーニング、午後は戦術練習と、選手たちは1日2回の練習スケジュールで激しく体をいじめ抜いた。
カギはオートマティズム 鈴木監督「質を高めたい」
もともと守備は悪くない。やはり向上させるべきは攻撃力、いや得点力だ。「ボールをしっかりとつないで攻めていく」という鈴木監督のコンセプトは、これまでのダイレクトにゴールを目指す攻撃とは対極をなす。鈴木監督が選手の意識転換に腐心していることが普段の練習からも見て取れる。
嬬恋キャンプ中は2度の練習試合(北信越リーグ1部のAC長野パルセイロ、J2ザスパ草津)を行なったが、それ以外にも11対11の実戦形式練習で、時折プレーを止めながら細かいチェックを入念に行なった。
それでも、まだまだ道半ばである。2−0で勝利した長野戦も、その2得点はセットプレーと、ミドルシュートのこぼれ球を押し込んだもの。JFLのさらに下、地域リーグ所属の長野が、3カテゴリー上の大宮を相手にしっかり守備を固めていたこともあったが、ボールを奪ってからなかなか崩せなかった。
光明が見えたのは草津戦か。ピッチを幅広く使い、サイドからの崩しで何度となくチャンスを作った。この試合のゴールは、ディフェンスラインの裏へ抜けようとする村上和弘へ、キャンプから中盤を務める市川雅彦がスルーパスを通し、村上からの折り返しをラファエルが流し込んだ形。45分3本の変則マッチで、レギュラー陣と目されるメンバーが抜けた後の3本目で2失点を喫したのはいただけなかったが、攻撃面では見るべきものがあった。
もちろん、指揮官は納得しない。「大まかな部分では悪くはないんだけど、細かいところではかなり突っ込んでやっていかないと駄目かな」。特に重視するのは、オートマティズム。「こちらが要求していることを、考えてやろうとはしている。それは大体できてきている。だけど、それがオートマチックにいかないから選手間で時間的なズレができてしまい、うまくいかない」(鈴木監督)。
最終ラインでボールを奪うと、ボランチの金澤慎や青木拓矢がすかさず裏へ飛び出していくが、ボールが出てこない。逆に、ボランチでボールを収めても、前線に動き出しがないためにボールが出せない。そうしたちぐはぐなシーンが練習試合でも多かった。判断の向上とベクトルの統一、それが、指揮官の要求するオートマティズムにつながっていくのだが、「繰り返しやっていかないと習慣化されないし、チームとしての一体感や連動性も生まれてこない」と、まだまだスタートラインに立ったばかりであることは認識済みのようで、「試合を重ねて修正して、質を高めていきたい」と語っていた。