アフリカの誇りは守られたか=ガーナの8強、残り5カ国はGL敗退という事実

木村かや子

ガーナによって救われたアフリカの誇り

アフリカ史上初のベスト4進出を目指して戦ったガーナだったが一歩及ばず 【ロイター】

「僕はこのワールドカップ(W杯)がアフリカ大陸に留まるよう心から願っている。そしてそれは可能だと信じている」――カメルーン代表サミュエル・エトーのこの言葉に象徴されるアフリカの夢は2日、2時間を超える死闘の末、ガーナがウルグアイに敗れた瞬間に終わりを告げた。それは――少なくともピッチ上では――アフリカにとってのW杯の、悲しく劇的な幕切れだった。

 それでもガーナは、アフリカの希望の火を存続させることに成功したのだ。グループリーグが終わるころには、「南アW杯での、アフリカ勢の失脚の理由」といったタイトルの分析記事が次々と出始め、実際、今大会でのアフリカ勢は期待を大きく裏切ったように見えていた。そしてそれを救ったのが、初のベスト8進出を果たした“ブラックスターズ”ことガーナだったのである。

 歴史的ベスト4まであと一歩だった。延長後半の120分には決勝弾となるはずだったシュートをウルグアイのFWルイス・スアレスに手で阻まれ、PKを得たガーナだったが、エースストライカーのアサモア・ギャンが放ったパワフルなシュートはクロスバーを直撃。起死回生のアクシデントに士気の高まるウルグアイがPK戦を制したことは、ある意味で予想通りのことだった。しかし数分前に運命のPKをミスしたばかりのギャンが、先鋒(せんぽう)をかって出て、それを見事に決めたことは、限られた能力で精いっぱい戦ったこのチームの、ずぶとくはないが勇敢な姿勢を象徴したように思う。ウルグアイは狡猾(こうかつ)でしぶとく、ガーナは初心(うぶ)だった。この準々決勝で彼らに足りなかったのは、おそらく経験と、何より“運”だったのだろう。翌日のアフリカの新聞は、夢の終わりを悲しんではいたが、最後まで死力を尽くして戦ったガーナをそろって賞賛していた。

アフリカ勢が抱える問題

 ガーナはアフリカの誇りを守ったが、そのほかのアフリカ勢がふがいなく散ったのも、また事実である。2006年W杯でもガーナはベスト16に進出しており、終わって見ればほぼいつも通り。母なる大地の効果はあまりなかったことになる。
 要するに、時計の針を早めることはできないということなのだろう。元カメルーン代表のパトリック・エムボマは「アフリカは確実に向上し続けているが、進歩には時間がかかる。われわれに必要なのは時間なんだ」と言う。大会前、初のアフリカ大陸でのW杯に情熱を燃やすアフリカ勢を見ながら、彼はこう言っていた。
「アフリカの人々が言っていることとは裏腹に、アフリカの代表が今回ベスト4やそれ以上に進出するのは非常に難しいとわたしは思う。もちろんないとは言い切れないし、アフリカの民はそろって、母国だけでなくすべてのアフリカ代表を後押しするだろう。でも準決勝以上に至るには、アフリカ大陸でW杯を開催し、アフリカの人々の応援を受けるだけでは十分ではないんだよ」

 この予想はガーナのせいで危うく外れかかったが、結果的には正しかった。ブラジル、ポルトガルと一緒の非常に厳しいグループに入ったコートジボワールは、ディディエ・ドログバの直前の故障があったにもかかわらず、それなりに健闘。グループリーグで敗退したものの、国民は「“エレファンツ”(コートジボワール代表の愛称)は恥ずかしくない戦い」を見せたと受け取った。ポルトガルが北朝鮮相手に挙げた7−0という成績は異常であり、組み分け抽選を含め、コートジボワールはやや運がなかったと言える。W杯史上初めてグループリーグで敗退した開催国・南アフリカも、手持ちの戦力の質を考えれば、責めることはできない成績だった。

 それでも、やはり悔いは残る。アフリカ代表はもはや驚きではなく、研究されているが故に、彼らにとって勝つのがより難しくなってきている。しかしそれを除いても、今回のW杯を通し、いまだ根強い組織力不足、ユース強化や運営面での協会の体制不備、ややヒステリックな政府の介入など、アフリカ勢が抱える問題はいくつか垣間見えた。欧州で活躍するトップ選手は増えたが、その反面、エゴの衝突という新しい問題も登場した。

いまだ根強い組織力の問題

組織力が強みのアルジェリアだが、個々の力不足が露呈した形になった 【ロイター】

「なぜアフリカ勢は失敗したのか?」というテーマのテレビ番組での雑談で、ゲストのマルコ・シモーネ(元ミラン、モナコなど)は、「チームにアフリカ人が2〜3人ならうまく機能するんだが、全員アフリカ人だとダメなんだよ。アフリカのチームには戦略的資質と統制が欠けている。たぶん文化的問題なんじゃないかな」と物知り顔で言った。
 コンゴ出身の元フランス代表クロード・マケレレは「そんなことはない。カメルーンのように欧州クラブで戦略の行使に慣れた選手を多く擁する代表チームもある」と応戦。しかしマケレレには悪いが、カメルーンは、今回戦略的な混乱を見せていたチームの筆頭だった。

 身体能力に優れたアフリカ勢が、戦術面での規律で問題を抱えていることは、もう何年も言われて続けていることだ。アフリカ勢の中で唯一、戦略的に整っていたガーナが勝ち進んだのも、偶然のたまものではないだろう。アフリカの代表が、決まって欧州や南米など外国に監督を探しに行くのは、おそらくその点を自覚しているからだ。実際、カメルーン代表監督のポール・ルグエンは、アフリカ選手権で失点が多すぎたことを受け、守備の整理に多くの努力を費やした。
 しかし大会前の親善試合や対日本戦を見る限り、体質に合わないことを押し付けられ過ぎたために、本来の武器のはずの爆発力が封印されてしまったような印象を受ける。守備の規律もそこそこ、攻撃もそこそこというぼやけたチームになってしまったのだ。

 それ故、ルグエンはカメルーンの特徴を理解していない、と非難されたのだが、これは言いがかりのようで一理ある。アフリカ人ならではの強みを生かしながら、守備にも統制を、というその配合の加減がうまくいっていなかった。アフリカのチームにただ欧州のやり方を押し付けてもうまくいかない。その国のサッカー文化を尊重しつつ、欧州風の規律を導入していかねばならないのだが、どちらかというと頑固で、アフリカサッカーに通じていたわけではないルグエンは、自分のメソッドをそのまま持ち込んで失敗。そのため、敗退後には「白人を呼んでくる代わりに、カメルーン人監督という選択を見直した方がいいのではないか」という議論も起こっていた。

 同じアフリカでも、アルジェリア、エジプトなどサハラより北のいわゆるアラブ系の国と、カメルーン、コートジボワールなど黒人系の国のスタイルは大きく違う。アラブ系の国は、黒人たちの持つ身体能力の高さ、肉体的爆発力は持ち合わせていないので、その分より頭脳的で、戦略的にもきちんと組織立っている。このところのアフリカネーションズカップで、ヨーロッパ的なプレーをするこれら北アフリカのチームが、才能故に優勝候補とされていたコートジボワールなどを抑えている事実は、サッカーにおける組織力の重要性を照らしている。

 しかし、やや2流の選手しか持たないアルジェリアは、いわば欧州代表の2流版。アフリカでこそ組織力のおかげで勝てても、いっそう洗練された組織力を持つ欧州勢を前にするとチャンスはない。したがってグループリーグ敗退は予想されていたことであり、1勝もできなかったとはいえ、勇敢に戦った彼らは自分たちの力の範囲でベストを尽くしたと言えるだろう。それでも本国では猛烈に批判されているらしく、ミックスゾーンでは、選手の1人、ラフィク・サイフィが女性記者をびんたするという事件が起きていた。もっとも理由は、記者がカタールで行われたサイフィのインタビューを訳し、妻がフランス人であることを本国にばらしたからだという。余談だが、元フランス領だったアルジェリアでは、それだけ反仏感情が高いということなのだ。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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