“AGAIN 2002”はならなかったけれど=“アジアの虎”韓国が世界で証明したもの

ディフェンスライン、さい配、決定力不足……課題は解決されず

イン・チョンヨン(写真)ら若手にとっては貴重な経験の場となったはず。ブラジル大会でのさらなる活躍を期待したい 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 だが、その反面、チームの課題とされてきた部分を最後まで解消できなかったのも事実である。例えばディフェンスラインの不安定さだ。もともと今回のチームは多彩なタレントをそろえた攻撃陣に比べると守備陣に強烈なタレントは少なく、予選時やその後の強化試合でもセンターバックの組み合わせはなかなか定まらなかった。カク・テヒの故障離脱でイ・ジョンス&チョ・ヨンヒョンのコンビで落ち着いたものの、ディフェンスラインの呼吸やラインと中盤の連係は完ぺきではなく、一瞬のほころびを突かれてしまったり、明らかに集中力を欠いた凡ミスが何度かあった。ナイジェリア戦やウルグアイ戦で許した先制点などはその最たる例だった。
 02年や06年はアシスタントコーチだったピム・ファーベークが決めごとを定め、徹底した反復練習で守備組織の構築に全力を注いでいたが、今回のチームでは守備練習に多くの時間を割くことが少なかったような気がする。それが守備面のもろさにつながったと思うと、惜しい。

 また、選手起用やさい配などベンチワークも物足りなかった。ウルグアイ戦で大会初の先発起用されたキム・ジェソンはこれといった働きもなく、その後に投入されたイ・ドングクも期待に応えることはできなかった。もともとホ・ジョンム監督は策略家タイプではなく、交代カードの切り方などがうまい監督とは言えない。ウルグアイ戦のような試合展開になるとその物足りなさが余計に目に付いた。
 02年時はヒディンクが、06年はアドフォカードがそのさい配で試合の流れを変えることに成功したが、今回の韓国にマジックはなかった。それどころかナイジェリア戦では途中出場したキム・ナミルがPKを献上するファウルを犯してしまったりと、そのさい配が裏目に出ることが多く、ウルグアイ戦のようなときに必要なスーパーサブ的存在の選手もいなかった。期待されたアン・ジョンファンも、結局、一度も起用されなかった。

 それに、今大会でも決定力不足は解消されなかった。6得点こそ挙げたが、そのうち5得点はFK、もしくはセットプレーからのもので、残る1得点はギリシャのパスをインターセプトとしたパク・チソンの個人技で生まれたもの。流れの中で相手を崩して決めた得点はなかった。チャンスはたくさん作った。それでも流れの中でゴールを奪えなかったのは、ありきたりな言葉になってしまうが、決定力不足が敗因の一端だと言われても仕方ないだろう。

4年後のブラジル大会へ

 それだけに今後はこれらの課題を克服していくことがさらなる成長への前提条件とされているが、切り替えの早い韓国のメディアとファンたちはすでに14年ブラジル大会に大きな期待と希望を寄せている。何しろパク・チュヨンはまだ25歳、イ・チョンヨンは22歳、キ・ソンヨンは21歳と若い。ベンチにはイ・スンリョル、キム・ボギョンと20歳の若手もいた。イ・ヨンピョも「若い選手たちがW杯という大きな舞台で自分たちの能力を100%発揮したことに驚いたし、頼もしかった。彼らは今大会を通じて想像以上に大きく成長した。次の大会でどんな姿を見せてくれるか期待でいっぱいだ。次の世代が8強以上の目標を十分にやり遂げてくれると思う」と語っている。

 このイ・ヨンピョを含め、イ・ウンジェ、アン・ジョンファン、キム・ナミル、チャ・ドゥリら02年の4強戦士たちはおそらく今大会が最後のW杯となるだろう。そして、おそらくパク・チソンも。キャプテンとしてチームを引っ張った彼は言っている。
「今日(ウルグアイ戦)で僕のW杯が終わったと思うと残念で、後悔の気持ちもある。ただ、大会を通じて韓国サッカーの希望を示すことができた。もちろん、まだ世界の強豪と実力差はあるが、韓国は欧州や南米相手にも対等に戦ったのは希望があるということだ。(ブラジル大会については)ファンが望む望まないという次元のことではない。代表で自分の力量を示せるかどうかが重要。ファンが望んでくれることはうれしいが、それだけの理由でピッチに立つことはできない。W杯を戦う代表は、オールスターチームではないのだから」

 2010年6月、南アフリカの地で02年W杯から続いた韓国サッカーの1つの時代が終わった。だが、同時に新たな時代もスタートした。アウエーで初の決勝トーナメント進出を果たした快挙を新たな自信にして、16強止まりで終わった悔しさをバネにして、“アジアの虎”は4年後のブラジルを目指す。

<了>

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている

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