“AGAIN 2002”はならなかったけれど=“アジアの虎”韓国が世界で証明したもの

慎武宏

大いなる可能性を感じさせた韓国代表

韓国は決勝トーナメント1回戦で敗退。02年大会の再現を目指したが無念の結果となった 【Getty Images】

 雨が降りしきるスタジアムに試合終了を告げるホイッスルが鳴り響くと、韓国代表の選手たちはその場に立ち尽くした。ガクリとひざを落として立ち上がれない者もいた。ウルグアイ代表と戦った決勝トーナメント1回戦。韓国は前半に先制されるも後半に追いつき、その後も猛攻を仕掛けたが逆に追加点を許し、1−2で敗れた。

 ベスト8進出はかなわず、ワールドカップ(W杯)が終わってしまった悔しさが込み上げてきたのだろう。右サイドバックのチャ・ドゥリらはユニホームで何度も涙をふきながら泣いていた。そんな選手たちに歩み寄り、慰めとねぎらいの言葉をかけている指揮官ホ・ジョンムの目にも、うっすらと涙が浮かんでいるようにも見えた。ピッチレベルで行われたフラッシュインタビューでも、指揮官は必死で涙をこらえようとしているようだった。
「わたしよりも……わたしよりも選手たちの方がもっと胸が痛いはずです。彼らは本当によくやってくれました」

 短い言葉だったが、感情がこもったこの一言に韓国全土が涙した。グループリーグ突破で一気に高まった“AGAIN 2002”はならなかったが、アウエーで行われたW杯で史上初の16強進出を果たしたチームへの賛辞は鳴りやまない。
「残念だがよく戦った」(『連合ニュース』)、「ホ・ジョンムの熱い涙に全国民が涙」(『マイデイリー』)、「空もレッドデビル(韓国代表の愛称)も泣いた。けれど、熱かった6月。わたしたちは幸せだった」(『中央日報』)

 実際、今大会で見せた韓国代表の戦いぶりは、大いなる可能性を感じさせるものだった。例えば初戦のギリシャ戦では洗練されたパスワークと落ち着いた試合運びで相手を圧倒したし、ナイジェリア戦では先制されても追いついて逆転。その後、同点に追いつかれたが最後まで攻撃を仕掛ける積極性を見せた。真っ向勝負を挑んだ代償としてアルゼンチンに1−4の大敗を喫する屈辱も味わったが、今回の韓国は過去の韓国とは明らかに異なるチームだった。本来の伝統的長所であった「運動量」や「粘り強さ」に加え、自ら仕掛けていく勇敢さと、一本調子でガムシャラなだけではない「うまさ」があった。

輝きを放った“ファンタスティック・フォー”

 それは個の充実によるところが大きい。パク・チュヨンの高い技術とひらめき。テクニカルで創造性にも富んだイ・チョンヨンの突破。そして、簡単には倒れないパク・チソンの強さとたくましさ。これにセットプレーのキッカーを務めたキ・ソンヨンを含めた別名“ファンタスティック・フォー”と呼ばれる欧州組カルテットの輝きと存在感は格別だった。
 また、イ・ヨンピョは欧州経験の長さで培った老練さを随所で見せたし、ドイツでプレーするチャ・ドゥリは対人プレーの強さを見せた(凡ミスも多かったが)。こうしたことから韓国メディアでは欧州組の存在が16強進出の原動力と評価するところが多く、「選手たちの欧州進出をさらに加速させることが代表強化につながる」とする意見が多い。

 また、経験豊富なベテランと新進気鋭の若手がかみ合い、世代融合のバランスが図れていたことも、今大会の韓国代表のストロングポイントだった。前政権時代(1998年10月から2000年10月)にパク・チソン、イ・ヨンピョらを代表に抜てきしたホ・ジョンム監督は、彼らを軸にしながらイ・チョンヨン、キ・ソンヨン、パク・チュヨンら若手も積極起用。大会直前には、それまで不動の守護神だったイ・ウンジェに代わって、26歳のチョン・ソンリョンに門番の役目を託した。08年10月から果敢に世代交代を推し進め、本大会でも16強進出という結果を残したホ・ジョンム監督のチームマネジメント力は、高く評価すべきだろう。

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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