勝利への欲望を抑え切れないピルロ=連覇を狙うイタリアのキーマン

イタリアの背番号10を背負うピルロがW杯連覇の鍵を握る 【Getty Images】

 イタリア代表、そしてミランで司令塔として攻撃のタクトを振るうアンドレア・ピルロ。その飄々(ひょうひょう)とした風ぼうとは裏腹に、希代のレジスタは勝利に飢えている。
 決して高くはなかった前評判を覆し、イタリアがワールドカップ(W杯)で4度目の頂点に輝いたのは4年前のドイツ大会のこと。南アフリカ大会の欧州予選では7勝3分けと無敗で終えたものの、09年のコンフェデレーションズカップではブラジルに0−3で完敗するなどしてグループリーグ敗退。中核メンバーにほぼ変化がなく、ベテランだらけの現在の“アズーリ”(イタリア代表の愛称)には、国内外から期待の声は聞こえてこない。

 だが、ピルロは言う。「本番を見ていてくれ」と。「僕らは世界を制することの難しさを知ると同時に、勝つために何が必要かも知り抜いている」と、その経験値に自信をのぞかせる。前回大会でイタリアの一員として優勝カップを掲げて以来、ミランでも3シーズンもタイトルから見放されているピルロにとって、W杯へのモチベーションは高い。イタリアの連覇達成は、攻守のリンクマンとして欠かせない「背番号10」の出来に懸かっている。(取材日=2010年5月12日)

「おれたちはまだ終わっていない」

――南アフリカでのW杯開幕を目前とする今、まず君の胸に去来する思いとは?

 そうだね……。やっぱり思うのは、何と言っても大会にうまく入っていきたいってことだよ。今季の僕は、チャンピオンズリーグのレアル・マドリー戦では一発決めたけど、セリエAでは無得点に終わっているしね。6月14日の初戦(対パラグアイ)で1つでもゴールを決めることができれば、きっと波に乗れるんじゃないかと。それこそ4年前のW杯がそうだったようにね。第1戦のガーナで僕が先制ゴールを決めて、そこからあの奇跡のような(優勝までの)1カ月が始まったと思うから。とはいえ、とにかく今は、開幕に向けてコンディションを作っていくことだけに集中しているんだけどね。

――いつものような騒動も今回はないし、より集中できる環境が整っていると言えるのでは?

 それは間違いない。ご存知の通り、4年前はもう本当にすごかったからね。大会前の合宿中はリッピの解任までが叫ばれていたわけで……。例の“カルチョカオス”(06年5月、審判の買収容疑でユベントスがセリエB降格や勝ち点はく奪処分を受けた事件)の混乱の中で、そもそもサッカーについて語られることさえ皆無だったからね。語られていたのは盗聴記録の中身と裁判の行方、ユベントスのスクデット(セリエA優勝)はく奪とか複数のクラブの降格処分とか……。それに比べれば、今回は本当に静かだよ。理想的な状況と言えるだろうね。当然、僕らの集中力がそがれることはない。

――とはいえ、その代表の主力の多くが今シーズン不振に陥っていたという事実がある。君やガットゥーゾらミラン勢、カンナバーロやブッフォンといったユベントス勢も、不本意な結果でシーズンを終えた。つまり、選手個々の状態としては決して理想的とは言えないのではないかと

 もちろん、それを否定はしないよ。だからこそ、僕らには新しいモチベーションが生まれているんだ。一度リセットして、完全に気分を入れ替えてW杯に臨むことができる。今回の南アフリカ大会に臨むイタリアに対して、やれ高齢化だとか何とか、確かにいろいろと言われている。でも、当事者である僕らに言わせれば、まあ本番を見ていてくれよ、ってところだね。
「W杯連覇は不可能だ」「それを達成するだけの力を現代表は持っていない」と言われれば言われるほど、僕らのモチベーションは上がるんだよ。何と言っても、僕らは世界を制することの意味を知っているし、あの瞬間の感動と興奮がどれほどなのかってことも、もちろん忘れていないからね。その難しさを知ると同時に、勝つために何が必要かも知り抜いている。そして、あの感動と興奮をもう一度味わえるのなら――ありきたりの言い方になってしまうけど、それこそ死に物狂いで戦う。そう誓うよ。この国のサッカーを代表するという誇り、そして、世界王者の称号に懸けてね。

 リッピが言ったように、「シーズンが終わればクラブのユニホームを脱ぎ、代表の青いそれに着替える」。そして南アフリカへ向かう。難しいシーズンを余儀なくされたユベントスの選手たちも、だからこそW杯に向けて特別な思いを抱いているんだ。「おれたちはまだ終わっていない」と。そして、この僕も。最後にカップを掲げたのは、横浜でのクラブW杯、もう3年近くも前のことだからね。そろそろ勝たないと、いわゆる勝利への欲望ってやつで、どうにかなりそうになる(笑)。

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著者プロフィール

1979年2月19日、ミラノ出身。98年よりイタリアテレビ局、テレロンバルディア勤務。2000年よりブレシア番、03年よりユベントス番を務めた後、05年からミラン番記者。『Voi Stadio』『Azzurro Italia』で司会を務め、また『ESPN Classic』『RTL 102.5』『Radio 24』記者も兼務。『Eurocalcio』などのサッカー誌などへの寄稿も多数

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