勝利への欲望を抑え切れないピルロ=連覇を狙うイタリアのキーマン
タイトルホルダーとしての自負と誇りが僕らにはある
ピルロが期待を寄せる若手MFのマルキージオ 【Getty Images】
W杯は決して40年に一度の開催じゃなくて、あくまでも4年に一度だ。ならば23人のうちの半数近くが、前回大会と同じであっても何ら不思議じゃない。むしろ、当然だと思うんだよ。選手を大幅に入れ換えたからといって劇的に強くなるわけじゃないしね。クラブでもそうだけど、とりわけ代表では戦術面での一貫性が大事になる。
監督はひとつのチームを作るために、今この時点で最も有益と思われる選手を選択する。そして23人に絞り込まれようとしている今、僕ら選手は監督に全幅の信頼を寄せている。確かに世代交代は重要だけど、それはやはり段階的に進められていくべきだと僕は思う。その意味で、リッピの選択は確実にイタリアの将来を見据えていると言えるはずだよ。
とにかく、これからもW杯は続いていくんだし、もちろんイタリアのサッカーもそうだ。その国を代表する1人として、歴史をこれからも長く積み重ねていくために、僕はできる限りのことをしたいと思っている。
――もう1点、W杯連覇の可能性が低いとする根拠の中に、昨年のコンフェデレーションズカップでの結果(1勝2敗でグループリーグ敗退)が挙げられている。特にブラジル戦(0−3)はそれこそ、“完膚なきまでやられた”と言えるほどの惨敗だった
あの大会で僕らが結果を残せなかったのは事実だけど、あれは言ってみればエキシビションだ。その大会でブラジルが勝ったというのは半ば当然の結果というべきなのか……。
どんなに良い内容を親善試合で見せても、本番で勝てなければ意味がない。来る6月の南アフリカ大会では、まったく違うイタリアを見せられるはずだ。もちろん、僕らはそのための準備をしている。
――ブラジルとスペインの力は突出している。倒すべき壁はあまりにも強固で高いと目されているが……
ブラジルとスペインだけでなく、そこにはもう1カ国が加わるよね。それは、あのミスター(ファビオ・カペッロ)率いるイングランドだ。彼らは着実に、実にしたたかに仕上げてくるだろうね。そしてオランダもドイツも、アルゼンチンもフランスまた、いつも通りに強い。
ただ、優勝候補の一角に僕らが割って入るのも紛れもない事実だし、さっきも言った通り、タイトルホルダーとしての自負と誇りが僕らにはある。そのタイトルを僕らから奪うのは、きっと誰にとっても簡単じゃないはずだ。
――要するに、連覇は決して不可能ではないと
その可能性を数字にすることはできない。でも確かなのは、それを目指して僕らが南アフリカへ向かうということ。ただし、その歩みはあくまでも一歩一歩、ひとつひとつだ。一戦一戦に全力を尽くす以外にないのも、また紛れもない事実だと思っている。簡単な試合なんていうのは1つもないからね。06年のイタリアがそうであったように、すべての試合で主審の笛が鳴るまで戦い抜く。それだけだよ。
もう1回はW杯を目指すつもり
もちろんすべてだよ。わずかでも油断すれば、足をすくわれる。それがW杯だからね。でも、仮に1カ国を挙げるとすれば、それはやっぱりスロバキアだね。3戦目だし、きっとその試合で(決勝トーナメントに進出できるか否かが)決まると思うから。
――「堅守速攻」。使い古された言葉だけど、最近のリッピはこれを繰り返している。今回のイタリアが基本とする布陣とは?
詳しいことは分からない、というか言えないよ。それは監督が決めることだし、僕らはその指示に従うまでのことさ。ただ、この前のローマ合宿(5月3、4日)で、これまでになかった形を試したのは事実だ。もちろん手応えを感じている。いつものイタリアらしい形と、より攻撃的な布陣。これをうまく組み合わせるというか、使い分けていくことがポイントになる。試合の途中でも流れに応じて柔軟に形を変える。これがリッピのサッカーだからね。
――いつものイタリアらしい守備に加えて、今の代表は特に中盤によるところが大きい。若手の台頭もある中、君が最も推す選手とは?
その若手の中の1人、クラウディオ・マルキージオ(24歳)だね。あれだけ困難なシーズンを余儀なくされたユベントスの中で、彼は着実に、しかもとてつもなく大きな成長を遂げたと思う。そして、まだまだその成長を続けている。守備のスキルは洗練されているし、ゲームメークの能力も非常に高い。オフ・ザ・ボールでの動きは巧みだし、鋭いドリブルも備え、シュート力もある。タフな精神力と驚異的なスタミナを兼ね備えているし、本当に楽しみな選手だよ。きっとこれから先の10年、イタリア代表で柱になる選手だと思う。
そしてもう1人は、ダニエレ・デ・ロッシ(26歳)。もちろん4年前とは比較にならないほど成長しているし、今の彼は欧州屈指のMFと言っても過言じゃないと思う。確かに、中盤はイタリアの武器になるはずだよ。
――他方、アンドレア・ピルロは31歳。これが最後のW杯になるのだろうか?
いや、もう1回は目指すつもりだよ。もちろんこの2本の足がもってくれればの話だけどね。幸いにも、これまでの僕は大きなけがを負ったこともないし、回復の早い体を持っている。だから、もう1回くらいは行けるんじゃないかと。もちろんその前に、今回の南アフリカ大会がある。将来に思いを巡らせるのは、7月の半ば以降だね。
<了>
(翻訳:宮崎隆司)
1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』『ワールドサッカー・マガジン』などに執筆