22年W杯招致の勝算は全くの五分五分=招致委員会委員長 犬飼基昭氏インタビュー

宇都宮徹壱

22年W杯の日本招致委員会の犬飼委員長にお話をうかがった 【宇都宮徹壱】

 2022年FIFAワールドカップ(W杯)招致活動について考えるシリーズの3回目。やはり、この活動のトップに立つ方にご登場いただくべきだろうということで、今回は招致委員会委員長の犬飼基昭氏にお話をうかがうことにした。

 言うまでもなく犬飼氏はJFA(日本サッカー協会)の会長であり、日本サッカー界のトップとして招致活動の陣頭指揮を執っている。多忙なスケジュールの中、4月末から5月にかけて、南米とヨーロッパの各国を歴訪し、22年大会についての日本の考えと立場を大いにアピールしたことが報じられた。とはいえ、22年招致については、まだまだわれわれ日本のサッカーファンに情報が行き渡っているとは言い難いのも事実である。

 果たして2度目のW杯を日本で開催する意義はどこにあるのか。「次世代W杯」は実現可能なのか。行政主導のハコものスタジアムが乱造された反省は生かされるのか。東京五輪招致失敗のダメージはどれほどのものなのか。招致活動の一番のライバルとなる国はどこなのか。そして日本の勝算はどれほどあるのか――。
 犬飼氏に聞いてみたいことは山ほどあった。与えられた時間は、正味20分。こちらの矢継ぎ早の質問に対して、招致活動のトップはざっくばらんに語ってくれた。(取材日:5月20日 インタビュアー:宇都宮徹壱)

日本が招致活動に名乗りを挙げた2つの理由

――まずは南米、ヨーロッパ行脚をされたご自身の手応えについて教えてください。周囲の評価や反響はいかがでしたか?

 行けばみんな、リップサービスはしてくれますから。日本に対して非常にリスペクトしているとか、2002年の時にいかに日本が素晴らしいホスピタリティーだったとかね。僕が一番驚いたのは、南米3カ国――アルゼンチン、パラグアイ、ブラジルを回ったんですけれど、それぞれ明治時代から移民の日本人の方が、非常に厳しい条件の中でコツコツと働いて、その国の農業だとかいろんな分野で非常に成功されて、国に寄与していると。日本人がいかにリスペクトされているということを、その国の人がみんな言うんですね。やはり、明治時代の日本の教育、明治時代の人は素晴らしかったんだなあと思います。(反響は)正直言って、まだまだよく分からないです。

――そういう意味では、先人たちの努力に感謝したいですね(笑)。とはいえ、今の日本に対して、そういった国々がどれだけシンパシーを覚えて、サポートしてくれるかというと、また話は違ってくるわけですが

 確かに「自分たちは日本を応援したい」と言ってくれるんですが、もちろん本音は分からないですよ。でも、実際には票がどこに流れるか、ということではなくて、日本人を高く評価してくれているというのはすごくうれしかったですね。

――日本は02年の日韓大会から20年ぶり、2度目の開催を目指しています。その意義については、明確に内外に伝えなければならないと思います。あらためて、今回手を挙げた理由についてお聞かせください

 協会の中では「JFA2005年宣言」として、2050年までにW杯を日本で開催して、優勝を狙おうという目標を掲げています。ただしFIFA(国際サッカー連盟)のルールが変わって、その大陸で開催されたら、2大会連続で立候補ができないことになったんですね。たぶん22年はアジアに来ると思うんですが、その次は30年まで立候補できなくなって(50年までには)もうあと2回しか日本は立候補できるチャンスがないわけですよ。このタイミングで手を挙げなかったら、チャンスをどんどん逸してしまう。それが第一の理由です。

――ほかにも理由があるのですか?

 今回、中国とインドが立候補していないんですね。サッカーの普及とか、どれだけの人に(見てもらえるか)という、FIFAが一番目を向けているところで、中国やインドのような国が立候補した場合、果たして勝てるのか。これらの人口大国が準備していないうちに日本が手を挙げないと、ますます大変になるなという危機感もあった。これが立候補した第二の理由です。

22年大会を開催すれば収入は900億円

――招致のコンセプトDVDを拝見すると、「自動翻訳機能」「観戦サポート機能」「フルコート3Dビジョン」とか、これが実現したらすごいなという映像ばかりでした。「次世代W杯」というのは分かるのですが、わずか12年後にあれだけのことができるんでしょうか

 それについては、慶應大学の村井(純)先生という(情報工学の)世界でも第一人者の方たちと、どういうことまでできるかについて慎重に話を進めています。(ファンフェストに関しては)世界400カ所くらい(のスタジアム)で実施して、そのうち150カ所くらいは(入場料として)お金を取れない国があるだろうと。残り250カ所くらいは有料でやるということで、そういういろいろな費用を含めて5500億円位でちょうどトントンくらい。
 4万人以上が入るスタジアムをベースにして考えていますので、4万人から1人2000円取れば、1試合8000万円ですよね。全部で64試合ですから、半分の32試合でも20億以上は入ってくるわけです。250カ所が有料だと思えば、5500億円と言っても考えられない数字ではないのです。

――ところで招致に関しては、総予算は約9億円と聞いていますが、これはどこから?

 招致の予算がないものですから。協会が02年のW杯で残っていたお金から5億円を供出して、あと4億は今回の招致でいろいろスポンサーの企業さんが応援してくれて、その9億でやりましょうということになっています。

――日本で開催となった場合は、あらたに予算を組むことになると思いますが、だいたいの概算は出ているのでしょうか

 前回の経験で、FIFAがどういう費用を負担するのか、そして開催国がどういう費用を負担するのか、ということでざっと計算はしてあります。だいたい収入が900億円くらい、支出が800億円くらいなんです。で、100億位残ると。このビルも02年のW杯の剰余金で買ったものですからね。それくらいの規模の大会に、今回はなると思います。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。W杯招致では、基本的には日本開催に「賛成」の立場を取る。

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