静かなる招致合戦に異議あり!=2022年FIFAワールドカップ日本招致活動を考える

宇都宮徹壱

2度の招致活動での変わらないことと変わったこと

立体型の「招致ブック」をFIFAに提出する日本サッカー協会の犬飼会長(中央)ら 【Photo:ロイター/アフロ】

 それからさらに時代はめぐり、02年から20年後の22年に、日本は2度目のW杯開催を実現すべく招致活動を進めている。5月14日にFIFAへ招致ブックを提出し、このほどメディア向けに配布された資料によると、22年大会招致の日本のアピールポイントは以下の4点である。

(1)最新テクノロジーによるサッカーコンテンツの革新
(2)ファンフェストの革新
(3)次世代育成活動の革新
(4)次世代スタジアム

 こうして、あらためて並べてみると、日本が世界にアピールできるポイントは、やはり「技術革新」であることは明らかである。そういえば02年大会でも、ヴァーチャルスタジアムの実現が高らかにうたわれていた。今回の「フルコート3Dビジョン」は、よく言えば20年越しのリベンジであり、悪く言えば20年前の焼き直しのようにも思える。いずれにしても、日本のストロングポイントが「技術革新」にあることだけは、時代を経ても変わらないと言えるだろう。

 その一方で招致活動をめぐる状況は、02年大会とは大きく変わっている。まず指摘しておきたいのが「W杯を是が非でも招致したい」という機運が、あまり感じられないことだ。少なくとも02年大会の招致活動では、今よりも格段に、それこそ国家レベルで盛り上がっていたと記憶する。
 だが、それ以上に気になるのが、前回以上に競争相手が多く、しかもいずれも強力なライバルであることだ。18年はヨーロッパで決まる公算が高いので、それらの国々を除外しても、招致レースを争うのは、米国、オーストラリア、カタール、そして韓国。それぞれが、日本にはないストロングポイントを持っている。

 米国は、日本よりも前回大会(94年)からの間隔が長く、独自のスポーツビジネスのメソッドを駆使して国内リーグMLS(メジャーリーグサッカー)の定着と拡大に成功している。オーストラリアは現在の所属はAFC(アジアサッカー連盟)だが、「オセアニア初」という大義名分を持っている。カタールは同様に「中東初」という野望を掲げており、湾岸地域が珍しく結束していること、そして潤沢なオイルマネーがあることも強みだ。そして韓国は――かつて日本は、彼らの政治力に痛い目に遭っているではないか!

 にもかかわらず、日本の招致活動は前回の02年大会に比べると、あまりに地味で盛り上がりに欠けると言わざるを得ないのが実情だ。そして、2018年と22年のW杯開催国が決定するのは、今年の12月。あと半年ちょっとしかないのである。

「気が付いたら負けていた」は何としても避けたい!

 結局のところ一番の問題は、われわれのあずかり知らぬところで物事が進んでいること、これに尽きるのではないか。よく分からないままに招致活動が進行し、終わってみれば「無駄遣い」と非難されるのは、16年の東京五輪招致活動で最後にしたい。本気で招致したいのならば、もっと国民的レベルで盛り上がる必要があるだろうし、ただでさえ理屈っぽいサッカーファンに対し、「日本で2度目のW杯を開催する理由」について、きちんとアナウンスした上で理解なりサポートなりしてもらうべきであろう。

 少なくとも「気が付いたら、招致合戦に負けていた」というのは、何としても避けたいところだ。せっかく世界に打って出るのだから、今まさに南アフリカに向かう日本代表と同様、サッカーファンの間でしっかり議論をした上で、本当にわれわれは「2度目のW杯自国開催を欲しているのか」について、ある程度のコンセンサスを固めるべきだろう。
 そのためには議論の前提として、招致活動のトップに立っている犬飼基昭会長や「アンバサダー」と呼ばれている人たちの考えについても、きちんと把握しておきたい。このシリーズ「2022年FIFAワールドカップ日本招致活動を考える」は、そうした議論の契機となることを第一に考えている。

 最後に、私自身の立ち位置をはっきりさせておきたい。
 正直なところ、02年からわずか20年後に、再び日本でW杯が行われることについては「是が非でも」という強い思いはなかった。だが、先に挙げたライバル国でのW杯を想像すると、これまた積極的に支持する気にはなれない。米国とオーストラリアは、何度も飛行機による移動を強いられるのは必至。カタールでは大っぴらにビールが飲めない。韓国は――心情的にシャクである。そうやって消去法で考えると、22年は日本で開催された方がよいのかな、という気分になってくる。ゆえに現状での私のスタンスは、いささか消極的であるものの、基本的には日本開催に「賛成」である。

 そんなわけで当企画では、22年の招致活動にかかわる方々に、日本開催の意義と、その思いについて鋭く切り込んでいきたい。今回を含めて4回の短期連載だが、今年のサッカー界の「もうひとつのビッグイベント」ゆえ、フォローしていただければ幸いである。

18年、22年W杯開催国決定までのプロセス

07年10月のFIFA理事会において、これまでの各大陸間持ち回りというルールが撤廃され、直近2大会を開催した大陸以外の全地域からの立候補を認めることが決定した。また、従来は1大会ずつ選んでいた開催国も18年、22年の2大会を同時に選考・決定する方式に変更。2大会連続の同大陸での開催はFIFAの規定により不可能となっているめ、例えば18年大会がヨーロッパに決定した場合、22年の開催国争いのライバルは、北中米かアジアの立候補国となる。開催国決定は10年12月2日の予定。

<招致立候補国>

・欧州サッカー連盟(UEFA)
イングランド
スペイン・ポルトガル(共催)
ロシア
ベルギー・オランダ(共催)

・アジアサッカー連盟(AFC)
日本
韓国
オーストラリア
カタール

・北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)
米国

※日本、韓国、カタールは22年のみ

<招致活動スケジュール>

・2009年
9月15日:開催地自治体・チームベースキャンプ地自治体の募集開始
9月25日・27日:自治体・都道府県協会向け説明会
12月11日:「招致契約書」の提出(招致委員会からFIFAへ)

・2010年
1月8日:開催地自治体・チームベースキャンプ地自治体の募集締め切り
2月26日:署名済み「FIFA契約書」提出締め切り
5月14日:「招致ブック」「開催契約書」の提出(招致委員会からFIFAへ)
7〜8月:FIFA視察団による視察(うち5日間)
12月2日(予定):開催国決定(FIFA理事会にて)

※詳細は「2022年FIFAワールドカップ日本招致委員会」公式サイトへ
http://www.dream-2022.jp/

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。W杯招致では、基本的には日本開催に「賛成」の立場を取る。

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