松井大輔、29歳の初挑戦を語る=ジンクスを破り、歴史を変えるために

宇都宮徹壱

どこの国と対戦しようともやることは変わらない

グループリーグを突破するためには、「うまく引き分けることが必要」と松井は話す 【宇都宮徹壱】

――今大会、日本が組み込まれたグループEでは、対戦順にカメルーン、オランダ、デンマークがいるわけですが、印象はいかがでしょう

 W杯って、簡単な試合はひとつもないと思う。それでもグループリーグをまずは突破しないと。そのためには、うまく引き分けるというのが必要だと思います。日本では「全部勝たないといけない」とか「勝利を目指すのが当たり前」というイメージがありますけど、海外には引き分けの文化ってあるじゃないですか。そういうのも理解しながら戦っていくべきだと思います。

――その意味でも、初戦のカメルーンは重要になるわけですが

 初戦だからチャンスはあると思う。カメルーンって、いいときはいいけど90分間集中できないチームだから、しっかり守ってそこを突いて行くのが大事だと思う。このチームはエトーを中心としたワンマンチームですけど、あまりまとまりがないし、個人能力に頼りすぎるところがありますね。だから90分間、集中を切らさずに戦えれば、組織力という意味で日本が有利な部分はあると思う。

――押し込まれる時間も長いと思いますが、松井さんが攻撃参加できるチャンスは?

 十分あると思いますよ。向こうは前にはすごく強いので、必ず裏を狙うこと。あと、たぶんゾーンで守ってくると思うので、違うゾーンにドリブルで入っていけば違う選手が出てくる。そのゾーンとゾーンの間をドリブルしていければ、うまく抜けるんじゃないかと思います。いずれにせよ、ここで勝てればグループリーグ突破も見えてくるんでね。だからやっぱり初戦が大事です。

――オランダについてはどうでしょう。去年はオランダ戦には出られませんでしたが、映像はご覧になりました?

 ちょっとは見ました。最初は良かったですけど、最終的に失点してしまうのは仕方がないのかなと。1対1だと、やっぱり厳しいですね。ただ僕は、あんまりそこは考えないですね。アフリカだろうがヨーロッパだろうが、どこの国と対戦しようともやることは変わらないですから。だから「こいつが来たらこうしよう」というのは、ほとんどないですね。もちろん、多少は守備のところは見ますけど、攻撃になったら自分のスキルを出すだけだし、あとは選手とのコミュニケーションが大事だと思います。

――では、南アでの戦いについてはどうでしょう。今回は季節が冬で、しかも高地での試合もあるわけですが

 それもあまり考えないようにしてますね。考えても仕方ない。日本人はそういうところに気を遣いますけど、僕は高地トレーニングの経験もあるし、スイスのモンブランでトレーニングしたりしてますから。季節的には冬なんだろうけど、夏よりかは動けるだろうし。むしろ日本にとっては、体力が長続きするんじゃないかと思いますね。

――つまり現地に行けば何とかなると?

 やっぱり順応性が大事。そこは日本人には足りないところだと思います。もちろん事前にもらえる情報はありがたいし、それを聞くことも大事だとは思いますよ。けど、実際にゲームがどう動くかは、始まってみないと分からない。イメージするのは大事だけど、いろんなタイプの選手がいて、やり方もいろいろだから、自分としてはいつものように自然に(ゲームに)入っていきたいと思いますね。

23歳の本田がうらやましい?

――先ほど「簡単な試合はひとつもない」とおっしゃっていました。実際、世界との戦いとなると、日本は守備的な戦いを強いられることになると思いますが

 僕もそう思います。実際にどう戦うかは分からないですけど、しっかり守備ブロックを作りながら戦っていかないといけないと思います。

――では、松井さんも引き気味になる

 ありだと思います、勝つためなら。そこからカウンター1発というのでもありだと思いますし、アウエーの戦い方というのも僕は分かっているつもりです。だから、まずはしっかり守りつつ、左からカウンターを仕掛けてセンタリングして、誰かがシュートというのができれば、1−0で終了というシナリオを描くこともできるだろうし。

――勝つためなら、守備もいとわないということですね

 それはもう。試合に出られるのならサイドバックだってやりますよ。1対1も好きだし。逆に長友(佑都)みたいに、そんなに上がらないと思いますよ、僕は(笑)。ちゃんとしっかりディフェンスして、1対1には負けないという自信はあります。

――ある意味、本田(圭佑)とは対照的なようにも思えますが。彼については、松井さんはどんな印象をお持ちですか?

「自分が(ゴールを)決める」ということに関しては、日本人離れしていますね。シュートを積極的に狙っているし、ああいう選手がひとりいるのは悪くないと思います。まあ、自己主張が強いということについては、もちろん言ったことへの結果も求められるわけですけど、でも別に(チームで)浮いていたとしても僕はいいと思いますよ。

――年齢も23歳と若いですよね

 僕も23歳くらいに戻りたいですよ(笑)。(メンバーの中で中堅になって)責任感というより、単純にそういう年齢になったんだなと思いますね。体のケアなんかも、今までは一度もマッサージを受けなかったのに、今では週1でケアしなければいけなくなりましたから。ベテランになる変わり目なんだなという気はします。

ジンクスを破りたいし、歴史を変えていきたい

観客を魅了するプレーで勝利を手繰り寄せることができるか。松井の活躍を期待したい 【Getty Images】

――いよいよ本大会の開幕まで1カ月を切ったわけですが、なかなか盛り上がりませんね。久々に日本に帰ってきて、びっくりされているのでは?

 別にいいんじゃないですか。フランスは(リーグアンで優勝した)マルセイユ一色でしたね。で、11日に代表発表があって、僕はそのころは飛行機に乗っていたんで、ベンゼマが外れたくらいしか聞いていないんですけど。欧州の場合、まだシーズンが終わっていないところも多いから。あとチャンピオンズリーグ(決勝)もあるから、それが終わってから、さあW杯という感じですよね。

――日本代表も正直、あまり期待されていない雰囲気があるわけですが、ご自身の中では見返そうという思いはありますか?

 それは選手みんなが持っていた方がいいでしょうね。実力の世界だから、実力で見返さないと。期待されるから、それに応えるというのはもちろんだけど、期待されなくてもやることはやらないと。僕としても、期待されようがされまいが、やることは同じですから。それでもW杯に行って、自分たちのサッカーをして、日本のサッカーをできるだけ上の方に持って行きたい。と同時に、自分自身もサッカーを楽しみたいです。

――松井さんにとって、今大会はキャリアの中でどのように位置付けられているのでしょうか?

 自分としては、いつも若いイメージでいきたいので、年齢がどうこうでなくて、もっと上に上がりたいという気持ちですね。「これが最後のW杯なので頑張ります」というのではなくて、これを機にどこか(別のクラブやリーグ)に行きたいというのもあるだろうし、ステップアップしたいというのは当然ありますね。自信をつけられる大会なので。もちろん、試合には勝ちたい。日本開催以外は(W杯で)一度も勝っていないわけじゃないですか。そういうジンクスを破りたいし、歴史を変えていきたいです。

――最後に、今回の選出を喜んでいる松井ファンに、何かメッセージはありますか?

 僕のファンって、コアな人が多いんですよね(笑)、サッカー好きな玄人の男性ファンが多い。そういう方々に見てもらえること、そして同性から好かれることもうれしいので、ちょっとしたプレーを逃さず見てほしいですね。僕の心境というか、ピッチに立って何を考えているんだろうな、というのを感じながら見ていただきたいと思います。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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