マリナーズ、ドタバタ劇の舞台裏 

丹羽政善

スクイズ失敗のバーンズが解雇

スクイズ失敗の3日後に解雇されたバーンズ 【Getty Images Sport】

 どっぷりと野球にはまっていた小学生のころの話。

 スクイズのサインが出たので、ピッチャー前へ無事に転がしたが、三塁ランナーのスタートが悪く、ホームでタッチアウトになった。

「どうしてスタートが遅れたの?」と聞けば、三塁走者の内田君は口をとがらせて言う。

「だって、取り消しのサインが出ただろ」

 えっ?

 そのころ、スクイズのサインは監督がウィンドブレーカーのポケットに両手を入れたら、というもの。それははっきりと確認したが、その後、監督は両手を振って、「今のはなし」と伝えようとしたらしい。が、ベンチは三塁側で、自分は右打者。もう背を向けていて、それを確認することはできなかった。

 イニングが終わってから、監督のところに内田君と行けば、普段はそうしたミスに対して厳しい鬼軍曹が頭をかきながらこういったことを覚えている。

「いやあ、悪い、悪い。たばこがどこにいったかなあと思って」

 そんな古い話を思い出したのは、やはり先日、小学生の試合でもあまり見かけないスクイズ失敗のシーンを見たからだろう。

 4月30日(現地時間)――。延長11回裏、1死満塁という場面で、打席のエリック・バーンズにスクイズのサインが出た。投じられた球は、外角低めの真っすぐ。

 決めるには少し難しいコースだが、体を投げ出すまでもなく、最悪でもバットには当てられる球。ところが、バーンズのとった行動は少し想像を超えていた。
 ボールが投手の手を離れた瞬間にバントの構えを見せた彼は、最後の最後でバットを引いたのである。
 スタートを切っていたイチローは、捕手がボールを落としたことにわずかな望みを託して突っ込んだがアウト。結果的には、イチローの本盗失敗だけが記録として残された。

 空振りなどは想定として頭にあるはずだが、バットを引くことは……?

 イチローは言う。「スクイズだからねぇ……」。
 彼にとっても想定外だったに違いないが、試合後、さらに多くがあっけにとられた。

 クラブハウスの前で記者らがドアが開くのを待っていると、すっかり着替え終わったバーンズが、愛用のビーチクルーザーとともに出てきたのだ。
 彼はそして、それにひょいとまたがると、人の往来が激しい通路を出口とは反対方向に向かってペダルをこぎ始めた。その時、ちょうど向こうからジャック・ズレンシックGMが歩いてきたが、バーンズはその脇をすり抜けていく。

 その背を追うズレンシックの目は、風ぼうさながらにまん丸で、バーンズが解雇されたのは、その3日後のことだった。

ブラッドリー、グリフィーにも問題発生

 残念なことに、この日を境に、マリナーズの問題が堰(せき)を切ったように表面化する。

 5月4日の試合では、チャンスで見逃し三振を喫したあと、ミルトン・ブラッドリーが試合途中にもかかわらず、帰宅してしまったようだ。
 19日に復帰したが、彼は個人的な問題を抱え、球団に助けを求めるまでに発展。真相に関しては、「そっとしておいてあげてくれ」との球団要請もあり、本人に質問することがタブーとなっている。

 5月10日、今度はケン・グリフィーの居眠り事件が伝えられた。
 8日の試合終盤、チャンスでロブ・ジョンソンがそのまま打席に立ったことをメディアらが疑問視。代打候補だったグリフィーが、クラブハウスで寝ていたために、ドン・ワカマツ監督はグリフィーを起用できなかったようだと、地元紙が報じたのだ。

 それは11日の試合前、グリフィー本人とワカマツ監督が否定し、一応は収束に向かっているものの、グリフィーの衰えは隠せず、最近はスタメンを外れることが多くなっている。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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