マリナーズ、ドタバタ劇の舞台裏
“免疫”のある記者は驚かず
睡眠障害を持つとされるグリフィー(右)には今回の件で同情の声もあがっている 【Getty Images Sport】
どうやら、昔のマリナーズを知っている人らは、免疫ができている。調べただけでも、すぐに両手が足りなくなった。
ほんの一部を紹介すると……。
・1980年にマリナーズの監督に就任したモウリー・ウィルス。かつて、先発の中堅手は誰かと問われ、「レオン・ロバーツ」という選手の名前を口にしたという。しかし、ロバーツは5週間も前にトレードされた選手だった。
・そのウィルス監督は、キャンプのある日、ウィリー・ノーウッドという選手の解雇を決め、チームに書類を提出したが、選手本人に伝えることをうっかり忘れ、その日の試合でもうっかり起用してしまったらしい。
・またウィルス監督の逸話だが、彼は一度代打で起用し、すでに交代した選手を、もう一度終盤に使おうとしたことがあるそうだ。
・1977年のシーズン中盤、スタン・トーマスという投手が、ガールフレンド絡みの恨みで、ツインズのマイク・カベッジにぶつけようと試みたものの、一度も当てることができず、カベッジは四球で一塁へ歩いたとのこと。彼はその後、チームから出場停止処分を受けた。
・1987年、ある選手が代打で起用されることになったが、クラブハウスにこもったまま出てこない。挙句の果ては、代打を拒否。理由は、試合中に「スーパーマリオブラザーズ」を始めたところ、念願の「ワールド7」に到達目前となり、コントローラーを手から離したくなかったそうだ。
選手が抱える障害も一因
また、『シアトル・タイムズ』紙のラリー・ストーン記者は、過去にもクラブハウスで寝ていた選手のリストを紹介し、さほど珍しいことではないと、遠まわしに擁護していた。
ブラッドリーは、過去にも試合途中で帰宅したことがある。そのときは、インディアンスからドジャースにトレードされたが、彼の場合、怒りをコントロールできない障害を抱えているとされ、翌日になって助けを求めたのは、その治療に関するものとの推測がある。そうであるなら、自らそれを認め、進んでカウンセリングを受けたことは、前向きにとらえてもいいのかもしれない。
その彼は帰宅事件の翌日、小学生の前で「モチベーション」についてスピーチを行い、「ぼくが子どものころ、お母さんは、スーパーで一生懸命働いていた。でも、帰ってくると、借金取りから電話があって……」という話を始め、「お母さんは、疲れてテーブルの上でそのまま寝てしまうことがあった。早く彼女を楽にしてあげたい――それが僕のモチベーションなんだよ」と感情的に話すと、子どもたちは水を打ったように静かになった。
彼が置かれた複雑な環境、自分では処理し切れない葛藤(かっとう)……。マリナーズから、「少し彼をそっとしてやっておいてくれ」との要請があったのは、そんな含みが裏にあるようだ。
そして、くだんのバーンズ。彼がスクイズでバットを引いたことに関しては、いまだに誰も、明確な解釈ができないでいる。彼の狙いは何だったのか? 意図を口にすることなくバーンズは退団したので、今となってはうやむやだが、彼のその後を知れば、それが答えになっているような気もする。
バーンズは数日後、なんとソフトボールのチームと契約を交わしたのである。
<了>