不平等を認める平等なルール=メジャーリーグビジネスの裏側
ブルワーズとヤンキースの舌戦から
テシェイラ、ロドリゲス、ジーター(左から)とカノの4選手の年俸はブルワーズの年俸総額を上回る 【Getty Images】
「いや、うちは、ルールにのっとって、やっているまでだ」
開幕に合わせ、米『USA TODAY』紙が各チームの総年俸を調査して公表した。すると、ブルワーズのオーナー、マーク・アタナシオが年俸格差の不公平を訴え、名指しされたヤンキースのランディ・レビン社長は、上から目線で応酬した。
実際、発言の元になった数字を調べて見ると……
◆ヤンキース
・マーク・テシェイラ(ファースト) : 2062万5000ドル(約19.4億円)
・ロビンソン・カノ(セカンド) : 900万ドル(約8.5億円)
・アレックス・ロドリゲス(サード) : 3300万ドル(約31億円)
・デレック・ジーター(ショート) : 2260万ドル(約21.2億円)
4選手の合計 : 8522万5000ドル(約80.1億円)
◆ブルワーズ
・チーム総年俸 : 8110万8278ドル(約76.2億円)
確かに、たった4人でブルワーズの年俸総額を411万6722ドルも上回っている。
アタナシオは1年半前、CC・サバシアをマネーゲームの末、ヤンキースに奪われた経緯もあるだけに、こんな愚痴の一つも口をついたか。
ついでにもう少し調べてみると、なんとブルワーズを含めて16チーム(半分以上!)が、ヤンキースの内野4人の年俸を下回っていた。そこに、サバシアの年俸(2428万5714ドル:約22.8億円)を加えれば、5人の年俸総額は1億ドルを突破する。となると、全チームの80%――24チームがそれを下回る計算だ。
中でも極端なのは、パイレーツの総年俸が3494万3000ドル(約32.8億円)なのに対し、ロドリゲス一人の年俸が3300万ドルという事実。その差は194万3000ドル(約1.8億円)しかない。
営業利益トップはマーリンズ
ヤンキースのレビン社長は、「収益分配のおかげで、あなた方は私たちのお金を手にしているではないか」とも反論している。
「そのお金を補強に使えばいいじゃないか。そのお金はどこに消えたのだ?」と。
これは、レッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリーも度々口にしていること。以下のデータを見れば、その言葉が理解できる。
◆2009年度営業利益(米経済誌『フォーブス』調べ)
1.マーリンズ : 4610万ドル(約43.3億円)
2.レッドソックス : 4000万ドル(約37.6億円)
3.ナショナルズ : 3350万ドル(約31.5億円)
4.ドジャース : 3310万ドル(約31.1億円)
5.パドレス : 3210万ドル(約30.2億円)
6.ホワイトソックス : 2640万ドル(約24.8億円)
7.メッツ : 2620万ドル(約24.6億円)
8.カブス : 2550万ドル(約24億円)
9.ツインズ : 2500万ドル(約23.5億円)
10.ヤンキース : 2490万ドル(約23.4億円)
この表で上位にいるマーリンズ、ナショナルズ、パドレスの年俸合計は、3チーム足しても1億4089万6200ドル(約132.4億円)で、ヤンキースの7割ほどでしかない。「受け取った収益分配金は、選手補強のために使うのが原則なのに、ポケットに入れちゃってるから、営業利益がそんなに出ているんじゃないですか?」とレビン社長らが皮肉を言いたくなるのも無理はない。ヤンキースは09年こそ利益が出ているが、それまでは赤字になることも珍しくなかった。
昨季の数字は公表されていないものの、05年の数字をたどると、マーリンズは3100万ドル(約29.1億円)もの収益分配を受けたそう。マーリンズの営業利益は、『フォーブス』誌の継続的な調査によれば、06年は1位、07年は2位、08年は1位、そして、すでに紹介したように09年も1位だ。