不平等を認める平等なルール=メジャーリーグビジネスの裏側

丹羽政善

したたかな球団経営

マーリンズのオーナー、ジェフリー・ローリア氏(右)。マーリンズはリーグトップクラスの営業利益を上げている。左は主軸のラミレス 【Getty Images】

 そんな現実があるだけに、ヤンキースが一方的に経済格差問題の矛先を向けられるのは、理不尽に映る。だが、ヤンキースやレッドソックスが、分配金の使途を公表せよと正式に迫るまでには至っていない。

 なぜか?

 彼らは彼らで、収益分配の基になる純収入(総収入から球場経費を除いた額)をごまかしているのでは、という疑いを持たれているのである。彼らのようにグループ内に放送局を抱えている場合、放映権料を市場価格より低い値段でテレビ局に売っているのでは、と以前から指摘されており、意図的に収入を抑えているといううわさが絶えない。

 収入が低くなれば、リーグに収める額も下がる。彼らが収益分配金の行方に関して透明性を求めることは、一方で、背後のからくりが追求される可能性があるわけだ。
 つまり、互いにすねに傷を持つ身、というわけ。

 かと言って、経済格差がこのままでいいはずはないのだが、中途半端な補強でヤンキースら大都市のチームと張り合うのは無理と割り切るマーリンズの手法にも一考の余地あり。

 彼らは、有望選手がオールスターに育ったら、フリーエージェントになる前にトレードして、再び3人ほどの若手有力選手を獲得する。それを繰り返すわけだが、過去7年で勝率が5割を下回ったのはわずかに2度だけ。勝つことを放棄せず、それでいて年俸(支出)を抑え、収益分配金で常にリーグトップクラスの営業利益を確保。球団運営をビジネスと割り切るなら、はるかに理にかなっている。

 選手会から警告を受けて、彼らはジョシュ・ジョンソンと異例の長期高額(といっても4年3900万ドル:約36.7億円)を結ばざるを得なかったが、彼らの方向性そのものは今後も変わらないと見られている。

 言ってみれば生活保護を受けているようなものだが、贅沢をするわけでもなく、身の程を知る。
 不平等であれ、与えられたルールそのものは平等。ならばそこで何ができるか。そこには、小規模マーケットで生きるための知恵がのぞく。

 ところで、ヤンキースもしたたか。

 彼らは、新球場建設のために借金をした。年間の返済額は球場経費として認められるため、長期にわたって純収入が減ることになる。となると、伴って他チームに渡るはずの収入分配金も減る。図式としては、間接的に他チームに新球場の借金を肩代わりさせているようなものだ。

 20年という期間で考えれば、約40%がその減税分で賄えるとのこと。テレビ放映権に絡んだからくりは、脱税と節税の間のグレーソーンにあるが、こちらは、むしろ収益分配制度の盲点を突いたといえる。

 見方を変えればせこい話だが、金持ちが節税に長けているのは実社会同様。
 ルールはそもそも、不公平を認めるためにあるようなものなのである。

<了>

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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