K−1煽り映像への情熱を語る(3)――佐々木敦規氏 「イン点の打ち方が、煽り映像で重要になってきます」
ファイヤーの試合映像はいらない
−63kg級スポット映像では、ファイヤー原田の一瞬をDon't Miss It!! 【(C)FEG Inc.】
ファイヤー、狂拳……、個性のある選手はたくさんますが、そうではないファイターもいますしね。そこは、知恵を出さなければいけないところです。ただ、−70kgと−63kgを比較して何が違うのか考えたときに、スピードだったり、技の多彩さでは、一般の人には分かりにくいと思うんですよ。だったら、人間を掘り下げていこうと。それが個性になるんじゃないかなって思います。
――それぞれの選手が、何かを持っているものですからね
ファイヤーがニヤリと笑って踊っている場面だけを観ると、“あれ、ライブで観たい”と思ってもらえるかもしれないし、ペイパービューを買ってもらえるかもしれない。でも、ついサービスしてしまって、過去の試合映像まで流してしまうと、それで満足しちゃう危険性も出てくるわけです。そのサジ加減は難しいですよね。
――試合を見せて幻想が膨らむ選手と、そうではない選手がいると
ただ笑っている顔で、勝負できる選手もいれば、動きで魅了する選手もいるわけですからね。その判断を誤ってはいけません。期待を持たせてナンボですからね。見せすぎだろうって場合もあるから。トレーラーも、まさにそうで、おいしいところばかりを集めて期待を膨らませ、本編を観に行こうと思わせるのが目的なのに、見せすぎたら逆効果です。ファイヤー原田の試合、いらないよってこともあるわけです(笑)。
――決して、試合が悪いわけではないですけどね
もちろん、面白いんですけど、イン点が、そこじゃないということだけです。なんだこいつって、思わせること。そこが彼のイン点です。
――たしかに、なんだこいつです
ぜひ、−63kgのトレーラーに注目してもらいたいですね。一瞬、ファイヤーが踊っている場面が流れますので、見逃さないでください(笑)。
映像よりも音楽を先に選ぶ
5.2MAXのスカパー!PPVで“巨匠”の作品に会える! 【(C)FEG Inc.】
どちらもありますけど、曲が先に決まった方が楽ですよ。曲を選べば尺が決まりますから、それに合わせた画を組み合わせていけばいいわけですからね。詩の内容、メロディの展開によって、持っていくストーリー、曲にはまりやすい言葉を選ぶこともできる。ほとんどの人は、音楽を先に選んでから画を合わせていると思います。
――昨年のWGPファイナルのトレーラーは、女性ヴォーカリストを使っていましたね
一回、女の子を使ってみたかったんです。バラードを使うことはよくあるんですけど、女性ヴォーカリストは、これまでなかったんですね。でも女性が、ファイナルに残った8人を応援している感じがほしかったんです。そういう世界観はできないかなって思っていて。女性ヴォーカリストを探していて、僕が好きだったのもあったんですけど、キャサリン・マクフィーの『マイ・ディスティニ―』、直訳すると私の運命という曲があって、これは使えるなと。ただ、その結論が出るまでには、100曲以上もバラードを聴いてバラード酔いしました(笑)。
――選曲は大切ですね
煽り映像の場合だけではないですけど、テンポが決まりますからね。16ビートなのか8ビートなのか分かりませんけど。そうすると、悩みが減ってきます。大量の素材の中から、たかだか3分間のために映像を選ぶ作業は、本当に大変なんですよ。でも、曲を選ぶことで方向性が決まってくると、映像の選択肢の幅が、一気に狭くなります。そうなると作業効率が、グンとよくなりますよね。
――マイナーな曲でいいのかということもありますし、ベタというかメジャーな曲だとイメージが決まりすぎる可能性も出てきますね
そのバランスは難しいですね。ベタな曲を使いたいときもありますから。今までのテレビの制作のシステムって、『SRS』の時も初期のK−1の煽り映像もそうだったと思うけど、僕らは映像でものを作っていたんですよ。映像が先にあって、次に音響効果って人がいる。その音響効果が、映像を観て曲を入れるわけです。今でも、テレビ業界はそれが主流ですけど。
――選曲は後ですか?
例えば、音楽のプロモーションビデオがありますよね。あれは、もちろん曲が先にあるわけです。そこに、映像をはめていく。だから、あれだけはまるんですね。4小節で映像が変わる、2小節で変化する。リズムによってカットを変えるから、あれだけ気持ち良くはまるわけです。音楽と映像の一体化。それがプロモーションビデオです。でもテレビ番組は、そこまでできない。僕らが映像を作って、後から音響効果が曲を入れますから、合うわけがないんですよ、リズムが。
PPVはジャンルの垣根を取れる
3分の映像を芸術性の高い作品にするならば、音楽を決めた方が、それに合わせた映像を取りに行けばいい。そうなると必然的に、気持ち良くなりますよね。それを実現したのは、佐藤大輔だと思いますよ。彼は開拓者でしょうね。佐藤大輔というジャンルがあるとすれば、K−1はDREAMとはまた違う形を作ろうと模索しています。
――それは楽しみですね。その佐々木巨匠の作品が思う存分、観られるのはスカパーのペイパービューならではの特典もいえます
僕は、K−1のペイパービューをパッケージで考えています。どれだけ選手に対して幻想を作れるかどうか。ここが勝負ですね。地上波で観れないものを、いかに期待感を持ってみれるようになるか。そこを開拓していきたいですよね。
――KOだけで完結するものではなく、目に見えないものですね
ただ、今回の−63kg級に関しては、熱を感じませんか?
――ファンもそうでしょうけど、選手・関係者にもそれは感じますね
取材をしていて感じるのは、これまで縁のなかったK−1に上がれるんだという、そんな熱がありますよね。もしかしたら、これは−70kgの時よりもあるかもしれない。
――たしかにそうかもしれません
これは1人が頑張ればいいわけではなくて、−63kg級トーナメントに出る22人全員が同じ方向へ向かわないと揃わない条件ですよね。ようやく、俺らで−63kgを盛り上げられるという熱が、この階級にはありますから、1試合だけを切り抜けばいいのではなくて、−63kg級の11試合を観た時のパッケージ感を作り上げることが、僕らも選手も努力しなくてはいけないし、とても大事なことだと思います。ただ、5月2日のMAXでいうと、−70kg級が1試合あって、合計12試合なんですけどね。
――城戸選手の試合が1つ入ってますね
でもその中で、選手の一挙手一投足、1分刻みのライブ感を、いかに演出できるか。ペイパービューで伝えられるのは、まさにそこですよね。地上波との差別化という意味では、映像の中に、バダ・ハリとペトロシアンが一緒に出てくるとか、それこそ自演乙だったりファイヤーだったり、すべての垣根を取り払うことが僕らにはできる。そうしたパッケージを可能にしているのが、ペイパービューの強みです。MAXでもWGPでもない、すべての枠を取り払った、まさに『The K−1』の世界観を皆さんにお見せしたいと思います。
【PROFILE】
佐々木敦規(ささき・あつのり)
1967年4月8日生。バラエティ、アイドル、お料理、格闘技、プロレス番組などなど、幅広い分野で活躍しているTVディレクター、演出家。フジテレビの伝説的格闘技番組『SRS』ではディレクターを務め、多くのファイターたちを世間にひろめ、格闘技の知名度アップに大いに貢献した。現在はFEGオフィシャル映像チーム代表として、K−1海外中継、スカパー!PPV、K−1プロモーションビデオの制作指揮をとっている。FILM Design Works主宰、一児のパパ。
■ツイッター http://twitter.com/Atsunorisasaki/
■FILM Design Works http://filmdesignworks.com/
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