石田正子が持つ、天性の精神力=クロスカントリー女子

高野祐太

粘って、攻めて、健闘のレース

 クロスカントリースキーの石田正子(JR北海道)は、今大会最初の種目の女子パシュート15キロに出場し、トップから2分26秒2遅れの42分24秒3で20位と健闘した。前半を得意のクラシカル走法で走った後、後半に苦手のフリー走法が待っている種目だけに、まずまず。これから控える狙い目の女子30キロに向けて、良い流れを作った。
 石田はスタートで出遅れた。不可抗力の要因で。まず第1条件として、ビブス27番の石田はスタート位置で22人のシード選手の後に続かなければならない。さらに2本の溝に沿って進むクラシカルでは、スタート直後はいくつものレーンがあるが、石田のレーンの前方でトラブル続出。ストックを折ったり、転倒する選手が出た。
 そこから巻き返すのが石田の強さだ。
「そこからだんだん抜かしていくときにも、全部のレーンで横一線に並ばれて、どこも抜かせない。前の選手のスキーを踏んでしまって申し訳なかったけど、しょうがないよねと思いながら行きました」
 1.3キロ地点では21位だったが、1周目を終える3.75キロでは、トップとわずか16秒9差の16位に浮上。気合いの入ったダブルポールを駆使し、第2集団のトップでメーンスタンド前を駆け抜けていった。そして、2周目が終わる7.5キロではトップと59秒9差だが14位に順位を上げた。

 ここからスキーを履き替えて、フリー走法に。苦手なだけに、どこまで順位を維持できるかに掛かってくる。9.1キロで18位。3周目終了の11.25キロで20位。12.9キロでも20位。そして、後続に追い上げられて、危なかったフィニッシュラインも20位のまま通過した。
「前半クラシカルは、順位を上げられて、持久力とかの面ではまずまずかな。後半フリーは、みんな下り坂で怖がってブレーキを掛けていたけど、私は外から攻めて、インへという感じで、スピードに乗れて。その後もテクニック的にはまずまずで悪くない滑りでした」

「全然緊張せずに走れた」 トリノから4年を経て

 前回のトリノ五輪では、個人種目の10キロクラシカルで31位と惨敗。それに続く2回目の五輪は、「いつものワールドカップのメンバーで走る感じなので、全然緊張せずに走れた」。4年前の経験が生きている。
 リベンジの4年間の成果は大きい。トリノ前後から、イタリア人のファビオ・ギサフィコーチを指導の中心に据えるなど、練習の体制を強化。最初に際立った成果を現したのが、トリノの翌シーズンに地元・札幌で行われたノルディックスキー世界選手権だった。30キロクラシカルで転倒しながら13位。五輪と世界選手権を通じた種目の日本人最高成績だった。
 そして、ブレークしたのが昨シーズンだ。世界選手権の10キロクラシカルで8位、チームスプリント4位、パシュート14位、リレー7位は、いずれもの五輪と世界選手権を通じた種目最高順位だった。さらにワールドカップの30キロクラシカルでついに3位。表彰台に上った。これは同僚の夏見円(JR北海道)と並ぶワールドカップの最高順位だった。

クロカン向きの骨格、そして心の強さ

 この日のレースでも、スタートの出遅れを取り戻す粘りを見せた石田。スキー操作の技術を突き詰め、見えてきたものがある。だが、その一方で、根底には石田特有の精神的な強さがある。
 子供時代にそのルーツを見つけた。中学生時代に地元のクロカンスキー少年団で指導した城和宏さんが言う。
「中学に上がってきて見た最初は、技術とかよりも、骨格がクロカン向きだなと思いましたね。足首が柔らかくて、緩い上りのときにしっかり踏むことができていました。それから、自分で自分をコントロールできるところがあって、そこがすごいなと思っていました」
 それを補足して、一緒に指導した山口幹夫さんが話す。
「彼女が中学2年生のとき、中体連の地区大会も全道大会も突破して全国大会に進みました。その前日練習でみんな戻っているのに、正子だけ帰らない。探しに行くと、迷ってしまったと言うんです。私はしかりつけ、彼女は泣き出してしまいました。『ああ、失敗したな、あんなに言わなければ良かった』と思いました。ところが、翌日は、ケロっとして8位に入った。前の日にしかられたとか、失敗とか、全然後に引きずらないで自分の力を出し切った。全国の8番なんてすごいです。
 ところが、昨シーズンが終わって会ったときに、しかられて泣いたことを話したら『全然覚えていない』って言うんです(笑)。それよりも、その前の全道大会で寒くて、私がポンチョを貸してあげたことは覚えているって」
 城さんと山口さんが、石田のほかの人にはない気の強さについて驚きのまなざしを向けて話してくれたことは、印象的だった。

 そういう精神面を持つ石田の「本番」は、30キロクラシカルだ。この日のレースは間隔がかなり空き、鈍っていたスピード感覚やレース勘を取り戻す作業になった。こういうスケジュールは、昨季に同じ会場で行われたワールドカップでも経験し、その後のレースで動きが良くなった、と言う。
「今回もそういう部分があるかな。だいぶ走れるようになってきた」。
 明るい表情で報道陣に受け答えする石田を見ていると、手応えがあるようにも感じられる。持ち前の精神力を発揮して、日本クロカン界に夢のメダルをもたらすことができるか。
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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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