キングダムエルガイツ代表・入江秀忠、メジャーへの道 インディー格闘家の遺書、金メダリストへの挑戦表明

入江秀忠

合同会見に“遺書”を持った入江が乱入、石井慧への挑戦を表明した 【スポーツナビ】

 世の中には不可能、限界、無理、出る杭は打たれるなど、人がどんなに前向きに歩もうとしても出鼻をくじくような言葉が無数に存在する。おれはまっことこのような言葉が大嫌いである。ただ、ただやみくもに前に進もうとしても、このような世間の風潮が足かせになり幾度も道を踏みはずしそうになった。

 2009年1月4日、念願のメジャー団体「戦極」(現SRC)でさいたまスーパーアリーナデビューを果たし、そして我がキングダムエルガイツもインディー格闘技団体の老舗として格闘技界の荒波で紆余曲折しながら、なんとか10周年記念大会にこぎつける事ができたまでは良かった。
 だが、あの戦極以来、試合をしたのはなんとこの10周念記念の1試合のみ。あの長く険しく、そして型破りな“メジャーへの旅”も世間の風潮を覆すまでに到らなかったのである。

 ただ、その後のキングダムはというと、メジャー効果なのかは別としてジムの会員数も右肩上がりに伸びはじめ、かねてからの念願だった2つ目のオフィシャルジム(キングダム立川支部#2NDSPIRIT)をオープンすることができた。そして、その中で切磋琢磨させているうち、弟子たちも他団体の実力者相手にちらほら金星を上げ始めた。しまいにはアホのRYOTAがSRC両国大会に大抜擢され、なんと1本勝ちを収めてしまうのである。

格闘家としての死に場所が欲しいおれ……そうだ、遺書を書こう

入江(左)は「戦極の乱2009」OPマッチででTKO勝利を収めたが、その後、本戦のオファーは来ず…… 【t.SAKUMA】

 所帯がでかくなればなるほど、やはり団体の長としてのおれの責任が増えるのは至極当然のことなので、福祉施設の役員やイベントスペースレンタル業、歌手などの副業を加えると、思ったように選手としての練習時間が取れなくなってきた。どんなにあせってみても時間は待ってはくれないもので、そうこうしている内に、なんとおれは40歳としての大台を迎える運びとなるのである。世間はアラフォーなどと言っていたりもするが、格闘家にとって40歳で現役を続けることはなかなか容易ではない。

 25歳で修斗の門を叩き、UWF直系のキングダムに入団。なんの因果か格闘技団体の代表という立場につき10年以上……思えば遠くにきたものだ。そろそろ、自分の納得する幕引きを考えないとな。
 それに持病である首の怪我も主治医いわく、今度再発したら現役生活は難しいらしく、その事もおれを悩ませる要因ではあった。これじゃ爆弾しょって戦っているようなもんだ。だらだらといつ壊れるか分からない体で現役生活を続けては、“格闘家 入江秀忠”これじゃ死んだも同然じゃないか。

 ん、死んだ……まてよ……格闘家としての死に場所が欲しいおれ……そうだ、遺書を書いたらどうだろうか。格闘家としての死に場所が欲しいのなら“格闘家としての遺書”を書けば良いのではないか(何故、この時この発想に落ち着いたかは今となっては不明)。格闘家としての最後の引き際を各メジャー団体にアピールしてみよう。しかし、それを発表する場はどうしたものか、どうせやるなら話題になった方がいいに決まっている。

 そういえば、2月7日におれがオーガナイザーを務める新宿歌舞伎町の新会場PINK BIG PIGで、キングダムエルガイツの東京大会が行われることは決定している。そして、さらに3月28日には“悪友”佐伯繁(DEEP代表)が同会場でイベントを開催することになっていたのである。
 よし、これだな。おれはすぐさま携帯で連絡を取り、めんどくさそうに受け答えする佐伯に1月22日にPINK BIG PIGでDEEP事務局との合同記者会見をやることを強引に納得させると、すぐさまパソコンを取り出し“格闘家としての遺書”を書き出した。

入江秀忠の「遺書」ここに全文を公開

おれは“格闘家としての”死に場所を求めている! 【t.SAKUMA】

 新春の候、時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。私は度々、日本の格闘技業界をお騒がせさせて頂いております入江秀忠と申すものです。このたびは再び格闘技業界に対して、決意表明をさせて頂きたく文をたしなめさせて頂きました。

 私は昨年の新春1月4日に埼玉スーパーアリーナで開催されました、メジャー団体“戦極”(現SRC)の特別興行「戦極の乱2009」に念願の初出場、そして初勝利を挙げさせていただきました。しかしその後、待てど暮らせどメジャー団体からのオファーは全くない状態が続き、いたずらに1年の歳月が過ぎていきました。

 私も齢40歳を迎え団体の代表としての職務や興行主をこなし、2つの道場経営、福祉施設の役員や歌手などの副業に加え、自称お笑い芸人としての才能も開花しつつあります。社会的な責任も多々増えていき、もしこれ以上選手としての練習時間を削ることになるのであれば、プロ格闘家として名乗ることに疑問を感じる事になるやもしれません。いっそこのまま業界から去り華麗に社交界にデビューという選択肢も考えましたが、1度引退してからもう一度夢を追いかけられるほど、私が人生で最も関わったこの業界が甘いものではないことも十分に知っております。

 そして、私のあせりにさらに拍車をかけているのが、今は治まってはいますが、07年のK−1トライアウトの前に痛めた首の怪我のことです。これは年齢を重ねるごとに症状が進む可能性があり、今度再発した場合には現役生活は無理であろうと主治医にも言われているのもあって、私にとっては正に1日、1時間、1分が“格闘家 入江秀忠”にとって、とても大事なタイムリミットです。

 それに今回は全く実績のない所からの私のゴリ押しではなく、メジャー団体のリングに実際に上がり、オープニングファイトとはいえTKO勝ちを収めたのですから、世界中のどのメジャー団体に挑戦しても、一応はおかしくはない免罪符を持っていると思っております。どうか、貴団体の末席に私の戦いの場を設けていただきたく存じます。このお手紙は“格闘家 入江秀忠”にとっての遺書。まさに、死に場所を求める遺言だと思ってくださいませ。

キングダムエルガイツ 代表 入江秀忠

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著者プロフィール

1969年6月17日 生まれ。長崎県出身。キングダムエルガイツ代表。インディ格闘家・プロレスラー

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