キングダムエルガイツ代表・入江秀忠、メジャーへの道 インディー格闘家の遺書、金メダリストへの挑戦表明

入江秀忠

“例のやつ”をしのばせ、おれは心の中でほくそ笑む

佐伯DEEP代表の許可も承諾、さあ、おれの出番だ 【スポーツナビ】

 いろいろ、あーだ、こーだと会見の作戦を練り上げ、そして当日を迎えた。おれはFEG谷川貞治イベントプロデュサー、DREAM笹原圭一イベントプロデュサー、SRCワールドビクトリーロード稲村角雄営業統括本部長などメジャー団体のトップにあてた“例のやつ”をカバンにしのばせていた。

 一応合同会見なので、相方の佐伯には事前に今回の会見内容に目に通してもらった方がいいのではないかと資料を手渡したのだが、佐伯は「どうせ、あんたがやるんだから」と中身をよく確かめずに返してきた。おれは心の中で(ラッキー、一応礼儀は果たしましたよ佐伯さん)と、ほくそ笑んだ。もしかしたらこの内容じゃ、いくら佐伯でもそれはマズイだろと言いかねないからな。

 先にDEEPの2月28日後楽園大会の会見などが行われ、桜木(裕司)選手や加藤(実)選手など、おれにゆかりがある選手達も出場するDEEP初代ライトヘビー級トーナメントなどの概要や、大先輩の金原(弘光)さんの試合などが発表された。

 その会見が終了すると、いよいよおれの出番である。佐伯の呼び込みで、おれは数日前から仕込んでおいたネタの一つであるこの会場のメーンキャラクター、ピンクの豚さん“ポルカ”と、さらにBGMはおれの作詞・作曲のLOCAL(もっとも誰も気付かなかったが)で登場した。佐伯とのやりとりはいつものことなので、ここでは割愛させていただく。

「〜FINALROAD〜金メダリストへの挑戦表明」

メジャー団体への挑戦表明後、取材陣のインタビューに応じる入江 【入江秀忠】

 先に2月7日に同会場でおこなわれる、キングダムvs.地下格闘技連合の世界一過激なエルガイツルールでの試合概要を発表したあと、おれはマスコミ陣にこう告げた。
「今から、重要なお知らせがあります」
 おれは昨年のメジャー初登場から今までのいきさつ、そして“格闘家としての遺書”の意味や思いを、とくとく語った。おれには残された時間もあまりないことも……。

 そしておれは、もうひとつのとびきりの隠し弾を仕込んでいた。それは同じ国士館大学体育学部出身で、北京オリンピック柔道100キロ超級金メダリスト石井慧への挑戦表明である。メジャー対インディー、格闘技界一のホープと格闘技界一の問題児。こんな生きてきた人生が分かりやすく対比して、そして違いすぎる対決はたぶんない。まあ、これはおれの独特に持論ではあるのだが。そんなおれでも「石井」の名前を出すときはさすがにためらった。
「くそ、また歩み出すと決めたじゃねえかよ、インディー格闘家。小さくまとまっていたら、おれはおれでなかったはずだ。人のやらないことをやる。おれの人生訓だよな……よし」
 おれは力強く報道陣に語りだした。
「この中でも得にやはり、SRCへの挑戦が大きく頭にあります。そして、その中でも挑戦したい選手は……石井慧選手です」
 一瞬場内が静まり返ったよ。まあ予想だにしない名前ではあったのだろうな。さすがの佐伯も驚いて「それがホントに実現したらすごいことになるぞ」とかいって騒いでいる。

 続いておれは矢継ぎ早に口を開いた。
「石井選手は先日の大みそかの試合で吉田(秀彦)選手に負けはしましたが、まだ経験がなく、試合をこなしていけばきっとすごい選手になります。彼はおれと同じ大学出身なので、おれが15年間格闘技界で培ってきたものを彼に伝えたい。本当にこれで最後になります、よろしくお願いします」

 やっと報道陣もことの顛末(てんまつ)が理解できたのか、その後おびただしいフラッシュがおれを包んだ。すると今度は、その遺書を見て「今日、笹原さんに会うから渡しておくよ。そうだ、谷川さんのも預かってやるよ」と佐伯が言ってきた。もしかして影で捨てられるんじゃないかとちょっとだけ思ったが、なかなかナイスなフォローだ佐伯、さすが相方。
「分かりました。皆さん、佐伯さんに笹原さんと谷川さんの分を手渡します」
 まあ、たぶん大体の流れはこんなもんだったと思う。そんなこんなで記者会見はお開きとなった。

本当にこれが最後の挑戦になる、おれはそう直感していた

入江最後の挑戦、その声はメジャー団体に届くのか!? 【入江秀忠】

 そして会見があった次の日、まあ特別大きな期待はしてなかったのだが、とりあえずインターネットの記事を見て愕然とした。ほとんどのマスコミ媒体にでかでかと「入江秀忠、石井彗挑戦」の記事が載っているではないか(もっともそのおかげでキングダムの大会記事がほとんど出てない)。2ちゃんねるでもスレ立っちゃってるし……おれ知らね。おれは改めて、金メダリストの威光と影響力を再認識させられた。

 とにかくサイは投げられたのだ。この“格闘技界の異端児”が再びメジャーのリングに上がり、ましてや金メダリストまで本当にたどりつくことができるのか?

 それはきっと奇跡。そしておれの最も嫌いな世間の風潮をぶっ飛ばすことであろう。また再び道を歩み出したおれのことを、信じてついてきてくれる奇特な方々がどれくらいいるかは分からないが、もしこの“インディー格闘家”最後の戦いを見届けようとしてくれるのであるならば、死に場所まで必ずついてきてほしい。

 ありえない奇跡を信じて、本当にこれが最後の挑戦になるな。次の日、近くのコンビニのポストからSRC宛ての遺書を投函するとき、おれはそう直感していた。


■「キングダムエルガイツ東京大会〜GRAND SLUM eggs 5〜」
2月7日(日)東京・PINK BIG PIG 観衆:278人(超満員)

<キングダムvs.地下格闘技連合軍 7対7全面対抗戦 賞金総額30万円 ヒジ・頭突き有りエルガイツ特別ルール レベル3>

<大将戦>
●岡田 学(チーム キングダム)
(1R0分48秒 TKO)
○吉田武生(地下格闘技連合軍)

<副将戦>
○鉄平(チーム キングダム)
(レフリー判定)
●前田島純(地下格闘技連合軍)

<五陣戦>
○吉本祥龍(チーム キングダム)
(レフリー判定)
●極沢竜介(地下格闘技連合軍)

<中堅戦>
○佐藤光治(チーム キングダム)
(1R1分30秒 TKO)
●高橋 徹(地下格闘技連合軍)

<三陣戦>
●坂東雄二郎(チーム キングダム)
(1R3分38秒 チュークスリーパー)
○内山晄成(地下格闘技連合軍)

<次鋒戦>
○清田秀樹(チーム キングダム)
(レフリー判定)
●中川謙二(地下格闘技連合軍)

<先鋒戦>
●船木隼人(チーム キングダム)
(1R2分27秒 TKO)
○将軍(地下格闘技連合軍)

<オープニングファイト2 グラップリングバウトウェルター級ファイブミニッツ>
○宮路 功(IMNグラップリング)
(2分33秒 変形アームロック)
●佐々木隆則(MMA・SINCERITY・G)

<オープニングファイト1 キングダムルールウェルター級ファイブミニッツ>
○太陽のアキバオー(キングダムサテライト聖蹟)
(4分29秒 チョークスリーパー)
●秋山太一(キングダムサテライト立川)

<サテライトファイト スタンディングバウトフェザー級 1R>
△高橋優作
(1R判定ドロー)
△カネゴン(キングダムサテライト聖蹟)

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著者プロフィール

1969年6月17日 生まれ。長崎県出身。キングダムエルガイツ代表。インディ格闘家・プロレスラー

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