葛西が連日の日本勢トップ 竹内も手ごたえ=スキー・ジャンプ週間第3戦

小林幸帆

2回目を終え、ガッツポーズをする葛西紀明=インスブルック 【共同】

 ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)ジャンプは3日、ジャンプ週間第3戦を兼ねた個人第9戦がオーストリアのインスブルック(HS130メートル、K点120メートル)で行われた。
 日本からは伊東大貴、栃本翔平(ともに雪印)、葛西紀明(土屋ホーム)、湯本史寿(東京美装)、竹内拓(北野建設)が参戦。葛西が日本勢ベストの9位で開幕戦以来となるベスト10入りを果たした。また、伊東は13位、竹内は27位となり、栃本は40位、湯本は予選を通過できなかった。優勝は、地元インスブルック出身のグレゴア・シュリーレンツァウアーで、2位にはスイスのシモン・アマン、3位にはフィンランドのヤンネ・アホネンが入った。

日本勢を引っ張る伊東と葛西

 1本目22位の伊東は2本目で全体の4位となる119メートルを飛んで最終順位を13位まで上げた。このジャンプ週間は体調不良との戦いになっているが、「今日は体調もだいぶんいいけれど、ずっと寝てたので陸トレ不足。体の動きにコントロールが利かず、スピードに合わせた動きができない。でも例年に比べれば、悪いながらギリギリ2本目に進んでいるので、いいとします」と、体調が万全でないというビハインドを背負う中でのこの結果には納得していた。
 そして、「明日(4日)ウエートトレーニングできるので、体の準備をしっかりしたい。そうすれば、なんぼかましな試合ができると思う。焦らずにやりたい」と、自身がジャンプ台記録(143メートル/2005年)を持つビショフスホーフェンでの最終戦(6日)を見据えた。5年近くも破られていないジャンプ台記録を持ちながら、ビショフスホーフェンの台はあまり好きではないそうで「あの時は、運と自分のジャンプがかみ合ったので出たけれど、シュリーレンツァウアーあたりが越しそうです(笑)」と話した。

「タイミングが遅れた。チキショー」という1本目は11位だった葛西。追い風の中、2本目で117メートルを飛んで暫定トップに立つと、最終的にはシングル入りを果たした。
「まだトップと5メートルくらい差があるので、それを詰めていきたい。順調に来ているのでもう少し調子が上がってくるんじゃないかと思う」という言葉通り順位も上げてきており、最終戦については「あそこの台は難しいので、どういう風に飛ぼうかと考えている。10位前後にはいけるんじゃないか」と話した。連日、日本勢トップにつけているが「今までは大貴(伊東)に引っ張ってもらってたけど、元気がなくなっちゃったんで自分が引っ張っていければ」と、さすがのリーダーシップを見せていた。

竹内はジャンプ週間で初めての2本目

 ジャンプ週間では2戦続けてKO(ノックアウト)方式の1本目で敗退している竹内は、「もっと予選で上に来ないと」と話していたが、第3戦は予選を17位で通過。そして、この試合の1本目が通常方式で行われること(※前日の予選が中止となり、本戦当日の試技が予選を兼ねることになったため、KO方式は採用されず)にチャンスを見いだすも116メートルとなると、「そんなに悪くなかったと思うけど頭が少し下がってしまった。これでは2本目に進めなさそう」と、不安をのぞかせた。しかし「2本目に進めたら次の試合も違う気持ちで臨めると思う。2本目は何位でもいいので力を出し切りたい」と2本目の目標をはっきりと口にしていた。
 そして、1本目で26位につけ、ジャンプ週間で初めて2本目を飛んだが、110メートルという飛距離に「(2本目にやろうとしたことを)やったけど、かなり失敗してしまった。色んなことを頭に入れ過ぎた。やっぱり徐々にやっていかないと」と、欲張った事で逆に足を引っ張られた様子。だが、2本目に進めたことで表情も明るく、「W杯ポイントを取るのと取らないのでは評価も変わるだろうし、自分も楽になる。昨年は今年より成績は良かったけれど、前年より成績を良くしようという思いが強すぎた。昨年は昨年、今年は今年と考えられず、どんどん上がるものだと思い込んでいた。それを教訓にして、今年は自分の状況を把握して飛んでいるので、その点に関しては昨年よりは全然いい。ただジャンプがまだかみ合っていないので、それが直ればどんどんいけると思う。夏のイメージも、やらなければならないことも分かっているので、あとは練習で距離が出たときの感覚を取り戻したい」と、前向きだ。

 3戦を終えての感想を「どの試合も精いっぱいやった結果」と、なかなか言えない言葉で締めくくった竹内には、ジャンプ週間にインターンシップとして帯同中というポーランドの女子高生カメラマンも“Takeuchi is so pretty!”(タケウチっって、とってもカワイイわね!)の一言。彼女の1番のお気に入りがアンドレアス・コフラー(オーストリア)というのが少しひっかかるが、若い女の子の好みは洋の東西を問わないことを証明した竹内には、今後も常時2本目に進んで世界中に女の子のファンを増やしてくれることを期待したくなる。

オーストリアの2人が地元決戦へ

シュリーレンツァウアーとコフラーの活躍もあり、会場はオーストリアの国旗で埋め尽くされた 【小林幸帆】

 オーストリアに舞台を移した第3戦、インスブルックは観衆2万1千人の満員札止めとなった。第2戦でシュリーレンツァウアーが優勝、開幕勝利のコフラーがジャンプ週間総合トップで、オーストリアの新聞はどれもジャンプがトップ記事。特に、この両地元選手をデカデカと一面に持ってきたタブロイド紙は、どこに行っても売り切れ。試合当日、シャンツェに向かうバスは、選手とおそろいの帽子をかぶったり、オーストリア国旗を手にするファンですし詰めとなり、この国のどこにこれだけの人が住んでいるのかと思わせるほどだった。

 注目の地元対決を制したのはシュリーレンツァウアーだった。1本目で、この日最長不倒の130メートルの大ジャンプを飛ぶと、続く2本目も、1本目上位の選手がそろって117〜118メートルに失速する中、貫禄の122メートルで優勝を決めた。
 ジャンプ週間4会場の中で唯一勝ったことのなかったホーム・シャンツェで初勝利を挙げ、オーストリア選手としては史上2人目の4山制覇を達成すると「もう言葉すら出ない。毎日シャンツェの横を通っていれば、そこで勝ちたいと思うもの。子どものころからの夢がやっとかなった。2本目のスタート台で鳥肌が立ったが、それを心から楽しんだ。そして2万人の前での国歌……今日は僕にとって最も素晴らしい1日となった」と感無量。一方のコフラーは第2戦に続き4位どまりだったが、ジャンプ週間リーダーは守った。

 これにより、総合優勝争いは恐らくコフラー(772.2ポイント)、シュリーレンツァウアー(757.6ポイント)の2人に絞られ、地元最終戦での一騎打ちとなる。
 昨季W杯総合優勝、フライング世界選手権でも金メダルと百戦錬磨、さらに追う者という精神的なアドバンテージもあるシュリーレンツァウアーに対し、ようやくW杯通算2勝目を挙げ、追われる者という重圧ものしかかるコフラー。どちらかといえばシュリーレンツァウアーに分があるか。

<了>
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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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