ハマった香川西の前橋育英対策=高校サッカー2回戦

鈴木潤

司令塔・小島封じが大成功

インターハイで得点王に輝いた前橋育英の西澤厚志(左奥)は無得点に終わった 【岩本勝暁】

 カウンターを成功させるためには当然のことながら相手からボールを奪わなければならない。だが、前橋育英のパスの出どころとなる司令塔の小島は高いスキルと抜群のキープ力を誇り、ほとんどボールを奪われることはない。実際に小島とマッチアップした香川西MFの高橋佳汰は「ビデオを見たら小島さんは切り返しのプレーが多いので、切り返す瞬間を狙っていたけれど、うまくて全然ボールを奪えませんでした」と舌を巻いていた。そこで大浦監督が考えたのは小島を狙うのではなく、小島に渡った時にパスコースを切ってバックパスをさせること、またはパスが渡った次の選手を狙うことだった。つまり起点をつぶすのではなく、挟み込みなど受け手に対して激しく奪いにいくことで、ボール奪取の可能性を高めた。

 小島という選手は、これまでは劣勢を強いられてきた場合でも、自ら相手の危険地域までボールを運ぶことで停滞したリズムを変え、打開策を見いだしてきた。左太ももの負傷も少なからず影響したのだろうが、香川西の行ったパスコースを切るという対策は、結果的に小島の前に生じるスペースを消していたため、彼がボールを運ぶ進路を封鎖したという点でも実に効果的だった。

前橋育英からすれば自滅に近い敗戦だが

「前半の良い時間帯で点を取れなかった」と話した前橋育英の皆川佑介 【岩本勝暁】

 香川西は後半に1点を返され、1点差に詰め寄られた。香川西が後半に放ったシュートは0と、後半の40分間はまさに防戦一方だった。圧力を掛け続ける前橋育英の猛攻に耐え抜き、金星を手にした大浦監督は「勝つなら1−0か0−0のPK戦だと思っていたけど、まさか3点も取れるとは思っていなかった。インターハイを優勝したチームを相手に子供たちは本当によくやってくれた」と、自ら企てたゲームプラン以上のプレーを披露してくれた選手たちを大いに褒めたたえた。

 一方、敗れた前橋育英の山田耕介監督は「香川西は守ってカウンターを仕掛けてくるだろうと思っていた」と、相手の戦術やゲームプランが想定内だったことを打ち明け、その上で「でもミスから失点して切り替えることができなかった……」と表情をしかめた。
 確かに1点目はGKのファンブル。2点目は相手を引っ張ってしまったことによるPK、3点目は前橋育英のDF小山真司が球際のわずかな競り合いでボールを奪われ、ショートカウンターを許したことから喫したものだ。いわばすべてミス絡みの失点。守備陣のミスについては、「僕たちが前半の良い時間帯で点を取れなかったから。それが守備陣のミスにつながってしまった」と皆川は攻撃陣に責任を求めた。小島もまた「僕の責任です。流れを変えられなかったのがダメだった」と自らを卑下する弁を口にした。

 守備陣のミス、攻撃陣の決定力不足、流れを変えられなかった司令塔……。前橋育英側から見た敗戦の理由はそんなところにあるようだが、それもこれも香川西の敷いた「前橋育英対策」が見事にハマったからこそ。相手からすれば自滅に近い敗戦も、そこには香川西の知恵が生きているのである。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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