藤枝明誠の歴史を作り続ける安東大介=高校サッカー2回戦

安藤隆人

躍進する藤枝明誠を引っ張るエース安東

国見戦では飯塚(写真)が2ゴールをマーク。エース安東は正確なクロスで4点目のゴールをアシストした 【鷹羽康博】

 選手権初出場を決めた県予選の決勝で、安東大介は負傷した。今年度、大きく躍進した藤枝明誠を語る上で欠かせない安東は、181センチの身長と、抜群のボディーバランス、高い身体能力を生かし、前線でターゲットマンとして君臨する。懐が深く、DFに囲まれてもボールキープできる上に、反転してそのままドリブルでアタッキングエリアまでボールを運ぶこともできるし、裏への飛び出しも得意な万能型のストライカーである。前線での献身的なプレーで、藤枝明誠のサッカーを支えてきたが、彼にもゴールがなかなか奪えない苦しいときがあった。

 プリンスリーグ東海1部で7勝1敗1分けの3位という好成績を残し、初の全国大会出場を、一番出場することが難しい高円宮杯全日本ユースで飾るという快挙を成し遂げた藤枝明誠だったが、インターハイ予選では準決勝で清水商に1−3で敗れてしまった。
 安東はエースとして、その責任を大きく感じていた。全体的なチームのプレー面で貢献していても、ゴールという目に見える結果がまだ少ない。その後の練習試合でもゴールが決められず、エースらしい仕事ができていない自分に悩んだ。
 それでも、「ゴールから遠ざかっていてもずっと我慢して使い続けた。彼を信用して使い続ける」と、田村和彦監督は彼の起用をやめなかった。

「いつか結果を出してくれるはず」――指揮官のこの思いに、彼は大舞台で応えて見せた。チームにとって初めての全国大会となった秋の高円宮杯全日本ユース、初戦の星稜戦で彼は新たな歴史を刻んだ。
 立ち上がりからディフェンスラインの裏のスペースを狙い続けると、前半4分、その気持ちが通じたのか、絶好のボールが彼の元に届く。追いすがるDFを振り切って、巧みにボールをコントロールすると、そのままゴールに一直線に運び、GKの位置を冷静に見極めて、サッカー部の歴史に名を刻む全国大会初ゴールを流し込んだ。

 このゴールを皮切りに、安東はついに目覚めた。47分にはチームの3点目を決めるなど、2ゴールの活躍でチームを歴史的勝利に導いた。エースの復活で、藤枝明誠はユース年代最高峰と呼ばれる大会で、初出場ベスト8の快挙を成し遂げ、その名を一気に全国にとどろかせた。

負傷にもかかわらず、3回戦進出に導く活躍

藤枝明誠は名門・国見を難なく撃破。初出場ながら堂々たる戦いぶりで16強に進出した 【鷹羽康博】

 ストライカーとして覚醒(かくせい)した彼は、選手権の静岡県予選でも安定したプレーを見せ、仲間たちとともに初めての選手権出場をつかんだ。だが、その代償として、彼の右足は2つの“爆弾”を抱えることとなった。ひざのじん帯と、足首のねんざ。痛みが引かず、当初は選手権出場さえ危ぶまれた。
 だが、「迷ったが、やっぱり彼は必要だった。この状況での出場は、彼の精神力が試される。勝ちたいという強い気持ちがあるかどうか。人間の本当の強さが試される。そこで何ができるのかを見てみたい」と、田村監督はスタメン起用を決意。安東はその思いに見事に応え、初戦の徳島商戦では開始1分に、左からのセンタリングを技ありのダイビングヘッドでたたき込み、チームの選手権初ゴールで、またしても歴史を作った。

 PK戦決着となった徳島商戦での勝利にフル出場で貢献した彼は、この日の国見戦でもスタメンに名を連ねた。前線で体を張り、田村監督が狙っていた両サイドへ巧みにボールを振り分けていく。彼の献身的なプレーがあったからこそ、チームは開始わずか12分の間に3点も挙げることができた。
 その後も安東は前線で存在感を放ち、相手の脅威となり続けた。3−1で迎えた67分には、左サイドからワンステップで正確無比なセンタリングを、ファーサイドでフリーになっていたMF飯塚祐樹に供給。とどめの4点目をアシストした。

 初出場で3回戦進出。この躍進の裏には歴史を作り続けるエースの成長がある。この成長はまだまだ過程にすぎず、これから先、さらなる進化と歴史の更新が見られるかもしれない。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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