バルサに打ちのめされた夜=宇都宮徹壱のアブダビ日記2009

宇都宮徹壱

クラブW杯の風物詩「盛り上げ隊」の正体とは?

コンゴDRからやってきた「ソン・プル・ソン」。毎試合、スタジアムを盛り上げてくれる 【宇都宮徹壱】

 アブダビ滞在9日目。FIFAクラブワールドカップ(W杯)2009は、16日も前日に続いて準決勝が、ここザイード・スポーツシティで行われる。この日のカードは、北中米カリブ王者のアトランテと、欧州王者FCバルセロナの顔合わせ――というよりも、大会の真打であるバルセロナの登場、といったほうがすっきりだろう。

 準決勝に先立ち、17時からはオセアニア王者オークランド・シティとアフリカ王者マゼンベによる5位決定戦が同会場で行われた。バルセロナの前座試合に組み込むというアイデア自体は決して悪くはない。が、その開催日時については、いささかの疑問符が付く。何と、水曜日の17時キックオフ。いくら当地の人々が暇そうにしているとはいえ(この国では面倒な労働のほとんどは出稼ぎ外国人がやってくれる)、平日の夕方からサッカー観戦する人は極めてまれである。実際、試合直前になっても、スタンドのほとんどが空席のまま。その後、入場者数は「4200人」と発表されたが、かなり疑わしいと言わざるを得ない。

 さて、この試合で私は、かねてより気になっていた「盛り上げ隊」の正体を確認したいと考えていた。「盛り上げ隊」とは、もちろん私が勝手に命名したものだ。その実体は、ブラスバンドとパーカッションを駆使しながら、今大会あらゆる試合で盛り上げに一役も二役も買っている、黒人パフォーマー部隊のことである。たびたびテレビに映っているから、きっとご記憶の方も多いことだろう。一般的には「マゼンベのサポーター」と説明されているようだが、それに対して私はずっと疑念を抱いていた。いわゆるサポーターが、ほかの試合の盛り上げにも懸命なのは、どう考えても不自然だからだ。そんなわけで応援の準備に余念がない彼らに、突撃取材を敢行をすることにした。幸い、英語を理解する人間がいたので、さっそく組織の概要を説明してもらった。

「われわれはコンゴ民主共和国のルブンバシという街で活動している『ソン・プル・ソン(フランス語で100パーセントの意味)』というチームだ。総勢で50人いる。今回、ルブンバシを本拠にしているマゼンベがクラブW杯に出場するというので、われわれも参加することにした。なぜ、ほかのチームも応援しているかって? それは、われわれは応援のプロだからさ。当然、ギャラはもらってやっている」

 話を聞く限り、確かに彼らはコンゴのルブンバシから来ているらしい。だが、純粋な意味でのサポーターではないようだ。それにしても気になったのが、彼らのスポンサーが誰なのかである。その点について突っ込もうとすると、いきなり大音響で太鼓とサクソフォンが鳴り始めて、とても取材どころではなくなってしまった。気が付けば、間もなくキックオフである。まことに遺憾ながら、突撃インタビューはここで打ち切りとなった。

殺伐とした空気の中で迎えた準決勝

バルセロナのファンに愛嬌を振りまく大会マスコットのザビ。モチーフはアラビア産のガゼル 【宇都宮徹壱】

 マゼンベとオークランドの試合は、予想以上に起伏に富んだ試合展開となった。
 前半24分、準々決勝の浦項スティーラーズ戦でスーパーセーブを連発していたGKのキディアバがペナルティーエリア外でハンドの判定を受け、一発退場。その直後にオークランドがヘインのゴールで先制するも、10人となったマゼンベも後半15分と22分の連続ゴールで一気に逆転。それでもオークランドは、ヘインがこの日2点目を決めて同点とし、さらに後半ロスタイムにファン・スティーデンが劇的な決勝ゴールを挙げて、激しい殴り合いに終止符を打った。

 全員が黒人というアフリカ王者と、選手の大半がアマチュアというオセアニア王者の対戦は、結局のところ後者の勝利に終わった。ピッチ上の選手のもとに、控え選手やスタッフ全員が駆け寄って喜びを分かち合うオークランド。その向こう側では、がっくりと肩を落としたマゼンベの選手たちが、静かにピッチから去っていくのが見える。両者は、チームカラーからサッカーのスタイル、さらには今大会での結末に至るまで、何もかもが実に対照的であった。

 オークランドについては、ニュージーランドのセミプロクラブが世界5位に輝いた快挙を、もっとメディアはたたえるべきだと思う。やっているサッカーは実にやぼったかったが、自分たちができることを最後まで貫き通した姿勢は大いに評価したい。一方のマゼンベについては、戦術やテクニックといったものを度外視した、とにかく大らかで楽しいサッカーを見せてくれたことに感謝したい。方向性はまるで異なるが、オークランドにしてもマゼンベにしても、クラブW杯という大会が存在しなければ、おそらくわれわれの目に触れることのなかった存在である。その意味で、今大会はそれぞれの大陸から「らしさ」を持ったクラブが出場し、それぞれの持ち味を出してくれたのは収穫であった。オークランドもマゼンベも、どうか胸を張って祖国に帰ってほしいものだ。

 さて、いよいよ準決勝である。大歓声、そして大ブーイング。のんびりした雰囲気で行われた5位決定戦から一転、何とも言えぬ殺伐とした空気がスタジアムを包みこんでいる。圧倒的に多いのはバルセロナのファンだが、アトランテのファンも声量では負けていない。大型画面にメッシやグアルディオラ監督の顔が映し出されると、割れんばかりのブーイングとヤジが飛ぶ。前日のエストゥディアンテスと浦項の試合は、サポーターの数にあまりの開きがありすぎたが、この日はそれほどでもなさそうだ。できることならピッチ上でも、それなりに拮抗(きっこう)した試合展開となることを期待したいところである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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