韓国ユース世代、強さを支える新たな源泉=改革が実を結んだ育成強化の最新事情

慎武宏

底辺拡大路線と「韓国版トレセン制度」の誕生

ホン・ミョンボ監督率いるU−20代表も8強入り。準々決勝で敗れはしたが、優勝したガーナと互角に渡り合った 【Photo:Action Images/アフロ】

 その1つが底辺拡大路線だった。KFAは99年からユース育成費用を協会年間予算に盛り込むことを決め、00年度からはサッカー部の新規創部を計画する小、中学校に対して支援金を支給。02年にはKリーグ各クラブにユース育成のための下部組織の設立を義務づけ、03年からはそれまで協会管理下になかった地域のサッカー教室などのクラブチームも正式登録。学校サッカー部は1種、クラブは2種という形で分類化して底辺拡大に努めた。

 この結果、09年8月時点でKFAに登録されている1種チーム数は591チーム(小学校213、中学校170、高校136、大学72)の合計1万8512名となり、年代別で区分されている2種のチーム数も114チーム(12歳以下56、15歳以下6、18歳以下0、19歳以上6、K1=Kリーグは15、K2=ナショナルリーグ14、K3は17)で合計3472名。1種と2種を合計すると、705チーム、2万1984名になった。
 ちなみにU−20W杯で活躍したキム・ボギョン、イ・スンリョル、オ・ジェソクはクラブチームの龍仁(ヨンイン)FC出身だし、U−17W杯の韓国メンバーは21名中6名がKリーグのユースチームに属している。この事実だけでも底辺拡大の成果が表れていると言えるだろう。

 注目すべきは、こうした底辺拡大と合わせて、KFAが育成強化システムの構築にも着手していたことだ。00年、KFAは既存の公式トーナメント戦とは別に、ソウル、仁川(インチョン)、蔚山(ウルサン)、釜山(プサン)、済州(チェジュ)など全国5圏内で年代別リーグ戦を実施し、01年からは全国16地域のリーグ戦上位2チームが全国リーグに進む「トンウォンカップ」をスタートさせた。一発勝負ゆえに勝利に固執せざるを得ないトーナメント戦ではなく、各チームに一定の試合数が確保され、多くの選手が実戦経験を積めるような環境作りに努めたのである。

 しかも、この地域別リーグには、もう1つの狙いがあった。試合を通じて各地区の選抜チームを結成して、地区別対抗戦などを実施しながら、そこから年齢別選抜チームを結成することを目的にしていたのだ。
 つまり、市町村レベルから有能な選手を吸い上げて選抜チームを作り、各地域同士の交流からより優秀な選手をピックアップして年齢別ユース代表に引き上げ、将来の韓国代表を育てていこうという、強化システムに着手したのである。そのセレクションと指導には、00年からKFAが雇用・公認したユース専任の巡回コーチ10名があたった。そうすることで、各地域や年齢層の情報を共有し、段階的に指導できる環境を整え、02年2月からは12歳から16歳までの各年齢別代表チームを定期的に運営・強化するようになった。「韓国版トレセン制度」とも言うべき強化システムの誕生だった。

さらなる改革を進め学歴偏重社会に挑戦

 それは、これまでの強化とは一線を画すアプローチだったと言える。というのも、以前の韓国ユース代表は、アジアユースやワールドユースの開催に合わせて(およそ大会6カ月前ぐらいから)、選手を集めてチームを結成して挑む即席チームの性格が強かった。チームを率いるコーチングスタッフも、国内トーナメント戦で好成績を残した高校や大学の監督たちで構成されることが多く、選手選考には私情やしがらみもあった。そうした負の要素を断ち切り、合理的で体系的なシステムの下で、各年代別ユース代表が運営強化されるようになったのである。

 端的な例がU−17代表のイ・ガンジョン監督だ。00年にKFAユース専任コーチとなった彼は、U−15代表監督(02〜03年)、U−20代表コーチ(02〜05年)、ユース専任コーチ統括(04〜07)を経て、07年10月から現在のチームを指導してきた。ユース年代のスペシャリストがチームを率いていたのだ。
 付け加えれば、U−20代表のホン・ミョンボ監督も、W杯代表コーチ、北京五輪代表コーチを経て、昨年からU−20代表監督になっている。気合と根性だけのスパルタ方式に一切頼らず、その豊富な選手経験に基づいた合理的な指導とチーム運営は、世界を戦う際に「韓国自滅」の根源とされてきた過度の緊張や精神的委縮というプレッシャーを取り除き、選手たちの創造力と少々のことでは動じない平常心を引き出したと、評価されている。

 サッカーの普及と底辺拡大、実戦重視のリーグ戦導入、体系的な選手選抜システム、そして、世界を知り、ユース年代を知るスペシャリストたちの指導。まさに昨今の韓国ユースの躍進は、99年から始まった改革が実を結んだ成果と言えるが、KFAはさらに踏み込んだ変革に乗り出している。
 1つは昨年からスタートした、Uリーグと高校チャレンジリーグだ。Uリーグは大学サッカー部のリーグ戦で、高校チャレンジカップはKリーグ傘下クラブと高校サッカー部が7カ月間の熱戦を繰り広げるリーグ戦だ。この世代は以前まで不定期開催のトーナメント戦ばかりが実戦の機会だったが、これによって毎週末試合が組まれるようになった。U−17代表やU−20代表の選手たちも、ここで日々実戦経験を積んでいる。
 そして、もう1つが今年から始まった「全国小中学校リーグ」。KFAと政府が協力して開催する同大会は、各地域で約8カ月のリーグ戦が行われている。

 これらリーグ戦の開催で、KFAは将来的には選手やチームの競争心を煽るためだけのトーナメント戦をなくそうともしている。それはつまり、“4強制度”という特殊なシステムを生み出した学歴偏重社会への挑戦とも言えなくもない。実際、サッカーで学歴を取得できる既存制度を支持する指導者や父兄からは、相当な反発があった。
 それでもU−20とU−17代表が見せた今回の躍進を追い風にして、ユース強化改革に取り組む韓国サッカー界。その改革の行方と、2002年キッズたちの成長を、これからもしっかり見守っていきたい。

<了>

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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