欧州サッカー界の移籍、外国人選手枠の未来=「ダニエルG」のサッカー法律講座
新たな外国人枠論議
アーセナルのセスクは10−11シーズンから「自国育ち選手」扱いとなる 【Getty Images】
既にUEFAでは、外国人選手枠に関する新たな規制を実施している。いわゆる「Home-grown players(自国育ちの選手)ルール」と呼ばれるものだ。この新規制では、CLとヨーロッパリーグに参加するクラブがチームメンバーを申し込む際、25人中8人が「地元でトレーニングを受けた選手」でなければならないとしている。
「地元でトレーニングを受けた選手」というのは、「所属クラブでトレーニングを受けた選手」もしくは「同じサッカー協会に属する別のクラブでトレーニングを受けた選手」を指すが、この2つの定義に大差はない。要するに、「地元でトレーニングを受けた選手」というのは、15歳から21歳の間、3シーズンをフルで、あるいは36カ月間にわたって、所属クラブ(もしくは自国のサッカー協会に属する別のクラブ)に登録していた選手のことを意味する。
イングランド・プレミアリーグも2010−11シーズンから、この「Home-grown players(自国育ちの選手)ルール」を採用することを発表している。このルールはUEFAのものとよく似ており、「自国育ちの選手を21歳の誕生日の前までに、イングランド・サッカー協会もしくはウェールズ・サッカー協会において、3シーズンあるいは36カ月間登録していた選手」と定義している。
ここで注目すべきなのは、このルールが国籍を問わず適用されるということだ。例えば、アーセナルの司令塔セスク・ファブレガス(国籍スペイン)。彼も「地元でトレーニングを受けた選手」に当てはまる。パエージャが大好きなスペイン人が、「イングランドの地元の選手」として数えられるのだ!
現在のUEFAおよびプレミアリーグ(10−11シーズンから)の選手枠に関するルールをまとめると、以下のようになる。
1)大会で申し込みが認められる各チームの選手の数:25人
2)試合当日に認められる登録選手の数:18人
3)各チームにおける、大会で申し込みが認められる自国育ちの選手の最少人数:8人
4)大会で登録が認められる21歳以下の選手の数:制限なし
外国人選手枠のこれから
<UEFA、FIFA、プレミアリーグ(10−11シーズン以降)における外国人選手枠の比較>
例1)スティーブン・ジェラード(リバプール/イングランド)
UEFAのルール:自国育ち選手として認められる
FIFAの提案:イングランド選手として認められる
プレミアリーグ:自国育ち選手として認められる
例2)セスク・ファブレガス(アーセナル/スペイン)
UEFAのルール:スペイン生まれだが、自国育ち選手として認められる
FIFAの提案:スペイン生まれのため、イングランド選手としては認められない
プレミアリーグ:スペイン生まれだが、自国育ち選手として認められる
クラブ側にとって、最強の外国人選手を獲得することが外国人選手枠の規制で制限されることは望ましくない。FIFAの提案が施行されれば、外国人選手の定員満員が生じ、自国の二流選手を起用せざるを得ないという事態を招くことになる。これは、マーケティングや放映権セールスにおける“リーグ商品”の魅力を半減させてしまうことにもつながり、リーグ側にとって好ましいことではないと言える。
法的観点から述べるなら、FIFAの提案が認められることは、EU法上起こりそうにないと考える。なぜなら、UEFAやプレミアリーグのルールとは異なり、FIFAの提案は国籍による差別を前提としているからだ(上記の通り、UEFAのルールは国籍に関係なく、選手が15歳から21歳の間どこでトレーニングを受けたかが問題となる)。
FIFA会長のジョゼフ・ブラッターは「6+5ルール」を欧州でも実施することに意欲的だが、そうなれば1990年のボスマンのような選手が、近い将来出現するかもしれない。いずれにせよ、外国人選手枠の問題は当分物議を醸すことになるだろう。
<了>