サンプドリア躍進の秘密=日本代表にも通じるチームの指針

宮崎隆司

チーム作りは徹底した「メイド・イン・イタリア」

デルネーリの戦術と徹底した「メイド・イン・イタリア」の運営がチームの躍進を支える 【Getty Images】

 昨季はアタランタを率い、ホームでのインテル戦で3−1の圧勝(アウエーでは3−4で競り負けた)。そして今季も同じく対インテルをチームの「戦術力」で倒してみせた。弱者が強者に立ち向かう上で必要な策を、この老獪な監督は、かつて“ミラクル”と言われたキエーボ(00年〜04年)での実績が示すように、過去に率いた地方クラブで数多く見せてきた。

 ちなみに、あのモリーニョとの比較で言えば、デルネーリの手にする年俸はおよそ15分の1にすぎない。希代の戦術家を自認するモリーニョを、地方クラブでたたき上げてきた策士デルネーリが倒す。いわゆる「ジャイアントキリング」、その典型に喝采(かっさい)を送るファンはイタリア国内に多い。

 そして、サンプドリアのクラブ運営。またしてもインテルとの比較で言うと、チーム内に占める外国人選手の数は、セリエA最多であるインテルの22人に対し、サンプのそれは同最少の4(今季のセリエA20クラブの平均は11.7人)。02年にはその数がわずか2人であったという事実が示す通り、ここ数年は徹底した「メイド・イン・イタリア」をチーム作りの柱とし、それを支える育成組織の拡充を積極的に進めてきた。
 直接傘下のユースに優秀な選手がひしめくのはもちろん、全国の下位リーグに期限付き移籍で修行を積む若手の数も国内屈指と言われ、次世代のトップチーム候補の確保にも余念がない。

 一方で、現在トップチームに所属する4人の外国人選手――ティッソーネ(アルゼンチン)、パダリーノとツィークラー(共にスイス)、スタンケビチウス(リトアニア)のうち、ティッソーネ以外はそれぞれの母国で代表の主軸となっている。23歳と若いティッソーネもまた、試合を経るごとにデルネーリ的戦術の中で、守備的MFとして着実に成長を遂げている。

“フォア・ザ・チーム”に豹変したカッサーノ

 国産選手をベースに緻密な戦術を徹底し、組織力が奇才カッサーノを支える。この構図において何よりもデカイのはやはり、そのイタリアサッカー史上最強最悪と言われた“悪童”アントニオ・カッサーノが、07年に素敵な彼女と出会ってからというもの文字通り豹変(ひょうへん)し、いまや“フォア・ザ・チーム”を公の場で言うようになったという奇跡だろう。もはやベテランの域に達しようかというカッサーノが、どこまでサンプドリアをけん引できるか。
 90−91シーズンに獲得した唯一のスクデット(セリエA優勝)は無理としても、「元悪童&たたき上げ集団」の活躍に期待したいものだ。

 そして最後にもう1点、前述の「デルネーリ的戦術」に関して。同様の組織戦術はベントゥーラ率いるバーリで、またはガスペリーニ率いるジェノアといったチームでも随所に見られる。いずれもセリエAの下位または中堅クラブ。決してスター軍団ではない彼らが、いかにして守備の組織を構築しているのか。現日本代表のプレスが“非効率”と言われるべきものとすれば、こうしたチームの戦術を一方で検証してみるのもひとつの手だ。参考になるプレーが満載である。

<了>

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著者プロフィール

1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』などに執筆。近著に『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(コスミック出版)

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