MLBプレーオフ、ア・リーグ地区シリーズ展望=ヤンキースにすきはないのか?

出村義和

エンゼルス対レッドソックス

チーム最多となる34本塁打を放ったエンゼルスのモラレス 【Getty Images】

 エンゼルスにとってはなんとしても倒さなければならない相手だ。この2年を含めて、地区シリーズでは過去に3回対決しているが、いずれも完敗している。通算で10回対戦して1勝9敗。実力差があるわけではない。実際、レギュラーシーズンではこの17試合で13勝4敗と、むしろ圧倒しているのだ。ところが、ポストシーズンでの対戦では打線が沈黙、思わぬミスを繰り返すといったエンゼルスらしくないゲーム運びになってしまう。しかし、今年はひと味違う。
 マイク・ソーシア監督は自信をみなぎらせながら、次のように語る。
「先発投手陣は監督に就任してから10年で最も層が厚く、打撃陣も素晴らしい」

 投打にバランスが取れ、機動力を使える完成度の高いチームだ。特に、攻撃面では選球眼が抜群で粘り強いボビー・アブレイユの加入で、チーム全体がしぶといバッティングをみせるようになり、ますます怖い打線になってきた。ホームランは決して多くないが、チーム打率ではヤンキースを抑えてリーグトップだ。1番の俊足ショーン・フィギンスが調子の波に乗れば、くせ者ぞろいの打線は一気に畳み掛ける攻撃ができる。また、34本塁打と大ブレークしたケンドリー・モラレスも注目だ。

 投手陣は故障者続出し、出そろったのは7月のトレードで左腕スコット・カズミアーを獲得してからだった。初戦を任されたエースのジョン・ラッキー、ジェレッド・ウィーバー、そして左腕ジョー・ソーンダースと続く豪華先発陣。ソーシア監督が胸を張る気持ちもわかる。
 問題はブルペンだ。信頼絶大のセットアップマンのスコット・シールズを故障で失い、例年に比べると弱体化している。クローザーのブライアン・フエンテスは力で抑え込むタイプではないので、リードを広げた形でバトンを渡したいところだ。しかし、選手層の厚さなどを考え合わせると、悲惨な過去は繰り返さないですみそうだ。

レッドソックスは大舞台に強いベケット(写真)と17勝を挙げたレスターと左右の両先発に期待 【Getty Images】

 レッドソックスの強みは、ジョン・レスターとジョシュ・ベケットという左右エースを持っている点にある。しかも、2人ともポストシーズンに強い。レスターは2勝2敗ながら、防御率は2.25、ベケットは7勝2敗で2.90だ。続くクレイ・バックホルツも終盤に調子を上げているだけに、期待が持てる。松坂大輔がリリーフに回るブルペンは多彩なスタッフがそろっている。パワーだけでなく投球術を磨いて安定感が増した守護神ジョナサン・パペルボンを始め、100マイルのジョシュ・バード、移籍の左腕ビリー・ワグナー、そして岡島秀樹と斎藤隆らで編成するブルペンは、ポストシーズン進出チームの中でも一、二を争う。

 打撃陣も充実している。2年連続盗塁王のジャコビー・エルスブリーから始まるラインアップはスピード、パワー、堅実性とあらゆる要素を備えている。心強いのは開幕から2カ月スランプにあえいでいたデービッド・オルティーズが調子を上げ、最終的に28本塁打を放ったことだ。
 不安は走られっぱなしで、盗塁阻止率1割にも満たないジェイソン・バリテック。おそらくビクター・マルティネスがマスクを被る機会が増えるだろうが、そうなると打撃への悪影響が考えられる。走ることでエンゼルスのリズムが生まれることになると、レッドソックスには苦しいシリーズになるだろう。

<了>

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

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