清水を変えた監督、長谷川健太の信念=堅守を築き上げたリアリスト

飯竹友彦

FW出身ながら徹底した守備組織を構築

清水を率いて5年目となる長谷川監督。強固な守備を武器に、チームを上位に引き上げた 【Photo:松岡健三郎/アフロ】

 サッカーどころ静岡。その象徴たる清水エスパルスで指揮を執るということは、並大抵のプレシャーではない。それを5年間続けているのが長谷川健太監督だ。
 就任1年目の2005年こそ残留争いに巻き込まれ15位と低迷したが、その後の3シーズンで、4位、4位、5位と清水を上位争いできるチームへと作り変えた。また、就任1年目の天皇杯では準優勝へと導き、4年目に当たる昨年はナビスコカップで準優勝になるなど、しっかりと成果を残している。そして、今季もナビスコカップは準決勝で敗退したもののベスト4入りを決め、リーグ戦では2位の川崎と勝ち点3差の4位につけるなど躍進を続けている。

 1つのチームで長期政権を任され、結果を出し続ける――。言葉にするのは簡単だが、これを実践するのはなかなか難しい。しかし、長谷川監督は清水の監督に就任してから5年、2年目以降は毎年チームを上位に押し上げることに成功している。その秘訣(ひけつ)はどこにあるのだろうか。

 まずは徹底した守備組織の構築にある。事実、長谷川監督も「守備はベース。できなければ試合にならない」と言い切る。現役時代はFWとして日本代表にまで上り詰めたほどの実力者。しかし、指導者になってからは一貫して守備のタスクをチームに落とし込んだ。
 例えば、北京五輪代表として活躍した本田拓也。2008年、期待の若手として法政大学から鳴り物入りで加入したが、開幕以降、徐々に出番を減らしていった。誰もが即戦力と思っていた矢先の出来事だ。しかし、そのとき本田はこう漏らした。「あまりボールに食いつくなって言われるんです」。

 清水は他チームと違って、やや特異な守備をする。守備時の4バックは割と低いポジションを取り、ボランチも中に絞って相手のサイド攻撃に対し積極的には食らいつかない。サイドバックも縦を切って攻撃するスペースを埋める。そうやって、自陣ゴール前に堅牢なブロックを作る。スペースを埋め、ディフェンスラインの裏を突かれてクロスを上げさせないことを第一の目的としている。
 だから、相手が浅い位置からクロスを入れようとするならば、あえて上げさせる。そして、中で構えるセンターバックがFWにしっかり体を当てて競り、跳ね返す。このこぼれ球に対しては、ボランチを含めた中盤がしっかり拾って、そこから一気に攻撃へとつなげる。簡単な言葉で説明すれば、「堅守速攻」のスタイルとなる(長谷川監督は「引いて守ってカウンター」という言葉を嫌うが……)。

攻撃に変化を加えても根幹は変わらない

 もちろん、このやり方を押し通せるのも、センターバックに高さと強さのある選手、青山直晃や岩下敬輔がいて、サイドバックにも市川大祐、児玉新といった中に絞ってセンターバック的な役割もこなせる人材がそろっているからこそ。そのため、被クロス数が多くても中央で跳ね返す確率が高く、DFの頭上からシュートを打たれる可能性は低い。
 また、守備時に態勢が整っていなければ、ボール奪取能力に長けたボランチでも無理に相手を追うことはしない。1対1でかわされ、中に切れ込まれてミドルシュートを打たれるリスクを回避すべく、中央を固めて、そこから外へ外へと追い出すのが清水のディフェンスだ。確かに、「クロスを入れられるというのはマイナスのイメージがある」(市川)。だが、中央でしっかり跳ね返せる力があり、それを実践できる選手がそろっていることもまた清水の強みである。
 以上が長谷川監督の考える効率的な守備である。過去4シーズンを振り返ってみても、失点は比較的少ない。長谷川監督の考える守備システムは間違っていなかったということなのだろう。

 攻撃に関しては、これまでさまざまなトライを重ねている。例えば、これまでの5年間で長谷川監督は幾つかのシステムを使い分けてきたが、最終的には2つのシステムに落ち着いた。
 1つはトップ下を置いた4−4−2のダイヤモンド型、もう1つはダブルボランチを置いた4−4−2のボックス型。特に昨季終盤くらいから、対戦相手やチーム状態によってシステムを使い分ける幅広い戦い方をしてきた。これは今季に入ってからも継続されているが、柔軟なシステム変更ができることによって、接戦の試合をものにすることができる。つまり、1点ビハインドの試合(勝ち点0)を、引き分け(勝ち点1)に持ち込むことによって、勝ち点を少しずつでも積み重ねる。そうすることで、しっかりと上位争いに絡むことができている。

 その柔軟なシステム変更を可能にしているのも、やはり守備のベースがあってこそ。安定感のある守備のおかげで、前線の組み合わせも柔軟に変えることができる。
 今季の序盤戦は、2トップにヨンセンと原一樹、そして日本代表の岡崎慎司を中盤で起用する変則3トップシステムを採用した。やや攻撃に比重が置かれたメンバー構成ではあるが、守備の決まり事さえしっかりできていればチームとしてのスタイルは変わらない。むしろ、守備の安定感があるからこそ、攻撃でちょっとしたデコレーションを加えても、チームの根幹は揺らがないという。そうした自信があるからこそ、攻撃でも思い切ったトライができるのだろう。

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著者プロフィール

1973年生まれ。平塚市出身。出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターに。同時に牛木素吉郎氏の下でサッカーライターとしての勉強を始め、地元平塚でオラが街のクラブチームの取材を始める。以後、神奈川県サッカー協会の広報誌制作にかかわったのをきっかけに取材の幅を広げ、カテゴリーを超えた取材を行っている。「EL GOLAZO」で、湘南ベルマーレと清水エスパルスの担当ライターとして活動した。現在はフリーランスの仕事のほか、2014年10月より、FMしみずマリンパルで毎週日曜日の18時から「Go Go S-PULSE」という清水エスパルスの応援番組のパーソナリティーを務めている。2時間まるごとエスパルスの話題でお伝えしている番組はツイキャス(http://twitcasting.tv/gogospulse763)もやっています。

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