追い詰められたポルトガル、苦戦の原因=ケイロスは“故郷”アフリカに錦を飾れるか

市之瀬敦

弛緩しているチームの空気

ケイロス監督はこの窮地を脱し、来年もポルトガルを率いることができるのか 【Getty Images】

 10月の2節を残し、ポルトガルが属するグループ1はまだ1位も2位も確定していない。そんな段階で予選の総括をするのはまさに拙速だろうが、現時点においてもポルトガルが苦境に陥っている原因を検討しておくことは可能であろう。「世界一」の選手クリスティアーノ・ロナウドはもちろん、ほかにも数多くの有名選手を擁するポルトガルだが、なぜ今回の予選でこれほどまでに苦しんでいるのだろうか。

 最初に指摘できるのは、今回の予選でポルトガルが対戦するチームが、難敵ぞろいだったという事実である(マルタは例外かもしれないが)。とくにスウェーデンとデンマークはポルトガルを上回る実績を残してきた北欧の雄であり、ハンガリーやアルバニアも侮れない相手である。思い出せば、2006年W杯の予選も、ユーロ08の予選も、ポルトガルは組み合わせに恵まれ、突破して当たり前と言えば、そう言えた。だが、今回は組み合わせの抽選結果を見た瞬間に、苦戦が予想できたのである。

 さらに、ユーロ04は自国開催で予選を免除されており、ポルトガルは長いこと、緊迫感のある予選の戦いを経験していなかった。昨年9月、ポルトガルは何となく緩い気持ちで予選に入り、ここに来てやっと本来の実力を発揮し始めたという感じなのではないだろうか。
 緊張感の欠如と言えば、昨夏、ケイロス監督の選出に至るプロセスも予定調和的で、すんなりと行き過ぎた感があった。ブラジル人スコラーリ監督の後はポルトガル人に任せる、そしてポルトガル人ならマンチェスター・ユナイテッドのコーチから満を持して登場のカルロス・ケイロスしかいない、というスムーズな流れで決まってしまった。スコラーリ監督就任の時はブラジル人監督に対する拒否反応が見られ、逆にそれがいい意味での緊張感を代表チームに生み出したが、今回はそれがなかった。

 また、スコラーリ監督は必要となれば時にこわもてでメディアを敵に回し、逆にチーム内の団結を固めることに成功した。だが、温厚な性格で、メディアともうまく付き合えるケイロス監督には大きなプレッシャーがかからず、その分、代表チームの雰囲気が弛緩(しかん)しているように見えた。勝負師のオーラが欠けるケイロス監督は、選手をリラックスさせるのはうまくても、適度に緊張させるのは苦手なのかもしれない。だが、プレッシャーなくして、勝負強いチームは作れまい。

代表では別人のように沈黙してしまうC・ロナウド

 一方で、ケイロス監督には同情すべき点もある。昨年9月に予選がスタートした時、主軸のC・ロナウドがけがで使えなかった。そこで2試合目のデンマーク戦でいきなり敗戦を喫したのは、何とも痛かったのである。
 しかも、このC・ロナウドが代表ゲームになるとまったく点が決められないとなると、ポルトガルが窮地に立たされるのも当然である。よく知られているように、所属クラブでは決定力を発揮するロナウドも、代表では別人のように沈黙してしまう。ただ独り善がりなプレーが目立つだけで、ポルトガル人サポーターからは激しく批判されているのである。

 だが、ポルトガル代表の不調はC・ロナウドだけを責めて済む問題でもない。ドリブル突破もフィニッシュも1人に押しつけていては、チームが機能するわけがない。
 ゲームを常に支配しながらも点が取れないのは、結局は誰にフィニッシュさせるのかが、いまだに決められていないところに原因があるのではないか。6月のアルバニア戦ではウーゴ・アルメイダにストライカーとしての風格が感じられたが、その彼も今月の試合は負傷で出られなかった。すると、帰化したばかりのリエジソンの初招集とヌーノ・ゴメスの代表復帰となったが、どう見てもバタバタしている印象ばかりが残るのである。

 以上、ポルトガル苦戦の原因を要約すれば、ポルトガル代表に強い相手と戦うためのメンタルな準備が十分でなかったこと、監督に強いリーダーシップが欠けていること、点を取るための形を1年経っても決められないでいることが指摘できるだろう。

10月決戦に向けて

 さて、苦しい戦いが続くポルトガル代表だが、残り2試合となった今、実は、わたしは以前よりは楽観的になっている。確かに首位通過は難しい。しかし、スウェーデンの結果いかんとはいうものの、2位は何とかなりそうな気もするのだ。ポルトガルはハンガリーとマルタの試合をホームで戦える。よほどの「事故」がない限り、勝ち点「6」の上乗せが可能である。リエジソンが救世主になってくれるかもしれない。一方で、スウェーデンはデンマークとアウエーで戦う。そこでスウェーデンが負けてくれれば、ポルトガルは生き返れるのだ。

 とはいえ、こうした楽観論もケイロス監督擁護とは別である。予選敗退なら更迭はもちろんのこと、そもそも代表監督になるべきではなかったという声も強い。就任から1年以上が過ぎてもチームの形を作れない監督に対しては、批判がやむことはないだろう。予選突破を奇跡的に成し遂げたとしても、来年の夏、ケイロス監督が別のチームを率いていても驚きには値しない。

 ケイロス監督は南アフリカ共和国の隣、かつてポルトガル領だったモザンビークの出身である。また、かつては南アの代表監督だったこともある。それだけにアフリカで開催されるW杯に対しては人一倍思い入れが強いはずだ。その彼は“故郷”アフリカに錦を飾ることができるだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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