鷹のエース・杉内が「勝つため」にやっていること=鷹詞2009〜たかことば〜

田尻耕太郎

最多勝争いでダルビッシュに並ぶ

 鷹のエースが、ダルビッシュ有(北海道日本ハム)に追いついた。9月6日の埼玉西武戦(ヤフードーム)。先発した杉内俊哉は8回1失点の好投で14勝目。これでパ・リーグ最多勝レースでトップに並んだ。
「ダルビッシュが休んでいる間にコソっと、ね」
 杉内は照れ笑いを浮かべるが、ここ最近の活躍ぶりは凄まじい。ただいま5連勝中。しかも5戦投げて全勝だから価値が高い。さらに、その中には首位・北海道日本ハム戦も2つ含まれる。右肩の不調で休んでいるダルビッシュの心中はさぞかし穏やかではないだろう。

06年の自分があったから、今がある

 今季ここまでの成績は、22試合に登板して14勝3敗。防御率2.38はリーグ4位。奪三振164個はリーグ2位とすべてが好成績だ。数字を見れば沢村賞を獲得した2005年(18勝4敗、防御率2.11、奪三振数218)にも匹敵する。
 しかし、杉内は「あのときの方が格段に上。今とは比べ物になりません」と首を横に振る。一番の違いはストレートだという。
「あの頃はストレートだけでも十分勝負ができた。でも、今はそのストレートが投げられないんです。今季はチェンジアップがすごくいい。ストレートで空振りを奪うときも、打者がチェンジアップを意識したスイングをしてくることが多い」
 それでも、勝っている。そこに杉内の大きな成長がある。

「2006年が大きいんですよ」
 沢村賞を取った翌年、杉内は苦しんでいた。わずかなフォームのずれから前年のようなボールが投げられなくなっていた。いら立ち、力む。するとまた崩れる。
「1シーズン、自分のフォームばかりを気にしていた」
 終わってみれば、7勝5敗。それ以前にも10勝した翌年に2勝と低迷したこともあり、杉内には「隔年投手」というレッテルが貼られるようになった。
「あの年の失敗を自分なりに振り返って考えたんです。沢村賞を獲った自分を求めてはダメだと。あの時は特別。2007年からはフォームのことなどまったく考えなくなりました。今の状態で、いかに抑えるか。今のベストを尽くせばいい。調子うんぬんではない。そう考えるようになりました」
 その結果、07年から今季まで3年連続で2ケタ勝利を達成している。「隔年」と呼ばれた杉内はもういない。

「勝つため」に取り組み始めたこと

 さらに、今季から「勝つために」ユニークなことを取り入れるようになった。ホーム試合限定だが、登板日の前日に自宅のトイレを掃除するのだという。
「トイレ掃除って嫌でしょ。そういう人の嫌がることを率先してやることで、運が向いてくるかなと思ってやっています」

 また、この夏頃からは「楽しんで投げる」ことに重点を置くようになった。その象徴が8月16日のオリックス戦(京セラドーム)。チームは連敗中で「去年の終盤のような雰囲気になりかけていた」という試合。杉内は何かを口ずさみながら投げていた。
「相手打者の応援歌です。連敗していて、チームのこの雰囲気はヤバいなって察するわけですよ。せめて自分が投げる試合は楽しく投げようじゃないか。それでチームの雰囲気が変わればいいと思っていました。そうしたら、うまい具合に力が抜けていいボールが投げられるようになりました」
 シーズンは残り1カ月を切った。「プレッシャーのかかる試合は当然9月以降の方が多くなりますよ」というが、杉内は楽しむ気持ちを決して忘れないと決めている。
「4月や5月よりも、今の方が楽しめていますね」

 福岡ソフトバンクは現在2位だが、5連勝で首位との差を「3.5」まで縮めてきた。今週中には和田毅が1軍で先発する。さらに松田宣浩も2軍戦に復帰し、「勝利の方程式」を担うファルケンボーグも8日に帰国しチームに合流する。ここにきてベストメンバーがそろう。逆転優勝の可能性が日に日に大きくなっていく。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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