黒獅子旗奪取に燃えるトヨタ自動車=第80回都市対抗直前リポート

島尻譲

荒波、荻野の俊足巧打コンビ

俊足でグラウンドを駆け回る荻野(写真上)と長打と勝負強さが魅力の田中(写真下) 【島尻譲】

 野手陣の目玉は何と言っても“2年目トリオ”の荒波翔、荻野貴司、田中幸長だ。
 荒波は横浜高1年夏から甲子園で大活躍。進学した東海大でも1年春から首都大学リーグで首位打者獲得などと、常に注目を集めて来たが、社会人で高い壁にぶつかった。ただ、それは技量のレベルうんぬんではなく、トヨタ自動車というチームの選手層の厚さで試合出場もままならないということだった。それでも、荒波は信頼を得て、昨秋には中堅のレギュラーを確保。低い打球で外野の間を抜いての長打、あるいは内野ゴロであっても安打にできる走力と意識の高さは高校・大学時代とは比べものにならない。
 荻野も荒波と同様、スピードが持ち味だ。関西学院大4年春に17盗塁の関西学生リーグシーズン最多盗塁記録をしているが、トップスピードへのギアチェンジが走り始めてから2歩目か3歩目という尋常でないくらいの早さ。中学時代は橿原コンドル(ボーイズリーグ)で補欠選手、奈良郡山高でもバイプレヤー的な地味だった選手が日々の努力でドラフト候補にも名を連ねるようになった。172センチと小柄ながらも両親や姉妹も陸上競技に励んでいたという血筋も関係しているのか身体能力は高く、体を目一杯使ったフルスイングも大きな魅力である。

打力が売りの田中

 田中のセールスポイントはとにかく打力だ。宇和島東高時代は通算31本塁打を放ち、早大では代打本塁打で鮮烈デビュー。1年秋の2打席連続本塁打や4年秋の三冠王獲得など華々しく、主将としてキャプテンシーも発揮した。ところが、トヨタ自動車入社直後はウェートオーバーでつまずく。また、守備力(左翼や三塁)の向上も課せられた。それでも、田中の持ち味はやっぱり、打力であった。昨秋の選手権では4番・指名打者を任され、大会序盤こそ調子は上がらなかったが、決勝戦(対JR東海)で2点差を引っ繰り返す左翼への逆転スリーラン本塁打は価値ある一発。同期の荒波や荻野に劣らない存在感をアピールしたことは言うまでもない。
 東海地区予選ではチーム打率2割3分3厘と奮わなかったが、この“2年目トリオ”以外にもプロ野球・阪神に在籍経験のある的場寛一らタレントぞろいのトヨタ自動車野手陣。もう「選手権だけ」とは言わせない。都市対抗初優勝を虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。

<了>

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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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