関西学院、まだまだ続く70年の夢物語=夏の甲子園リポート

松倉雄太

4万2千人を飲み込んだスタンド全体が大合唱

人文字で三日月形の校章をつくって声援を送る関西学院応援団=甲子園 【共同】

 1時間53分の戦いが終わった甲子園。勝者をたたえる校歌が流れる。
『風に思う空の翼 輝く自由〜』
 校章である三日月の人文字が浮かぶアルプススタンドだけでなく、4万2千人を飲み込んだスタンド全体が自然と大合唱になった。関西学院高等部のOBだけではなく、大学のOB、OGも歓喜に震えた。
「生きている間に夏の甲子園に出場できるとは思わなかった。しかも勝って校歌を歌えるとは……」
 目頭を熱くした年輩のOBの姿があった。
「スタンドの応援は確実に後押ししてくれた。これで少しは学校に恩返しができたかな」
 インタビューで話した広岡正信監督の目は真っ赤だった。
「OBの方々の支えがあったからこそ勝てた」
 指名選手としてお立ち台に立った山崎裕貴(3年)は感謝の念を口にした。

無失点左腕攻略のカギは「ストライクを打つこと」

 兵庫大会では3連覇を目指していた報徳学園高を破って勢いに乗り、70年ぶりにつかんだ夏の甲子園。その初戦の相手は山形代表の酒田南高。エース左腕の安井亮輔(3年)は山形大会5試合を1人で投げ抜き無失点。対戦が決まると広岡監督は絶句した。
「大会雑誌を見て相手が強い。それに大阪出身の選手も多い。兵庫県勢は大阪府と相性が悪いんです」と抽選会後から会見の度に話していた広岡監督。それでも「雑誌を何度も読むうちに、ちょっとずつ勝機も見出してきたんです」と勝てる手ごたえも感じつつあった。

 無失点の左腕をどう攻略するか。指揮官が出した結論は「普段通り、ストライクを打つこと」だった。難しい考えはいらない、ストライクの球を打つ。その普段通りの野球を選手は実践した。3回、1死二塁から3番・山崎裕が右中間へ二塁打を放って先取点を奪った。アルプススタンドからは得点した時の応援歌『新月旗の下に』がこだまする。
 揺れるようなスタンドの雰囲気に、酒田南高の選手は次第に飲み込まれた。「何かがおかしかった」と振り返ったエースの安井。4回に一度は同点に追いついたものの、もはやスタンドと一体となった勢いを止めることができなくなっていた。
 先発したエース・新川紘耶(3年)からリリーフした山崎裕。兵庫大会からの必勝リレーがこの日も機能する。さらに負傷退場した1番の梅本裕之(3年)に代わって途中から出場した安食拓海(3年)がダメ押しとなる2点適時二塁打を放つなど、広岡監督のさい配がことごとく当たった。
「選手は持てる力を発揮してくれた。120点、二重丸、花丸ですよ」
 広岡監督は胸を張った。

次戦は今大会優勝候補

 2回戦の相手は中京大中京高(愛知)に決まった。この日の第2試合で龍谷大平安高(京都)に快勝した今大会の優勝候補。「きょうの試合のことしか考えてなかったので次のことはこれからです」と話した広岡監督。しかし、初戦を突破した勢いとスタンドを揺らす大応援を味方につけて、70年の時を結んだ夢物語はまだまだ続く。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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