第9回 コンフェデ杯成功の陰で(6月28日@ヨハネスブルク)=宇都宮徹壱の日々是連盟杯

宇都宮徹壱

メディアセンターでのブーブーゼラ

サントン地区のネルソン・マンデラ・スクエアにある巨大なマンデラ像は、格好の観光スポットとなっている 【宇都宮徹壱】

 南アフリカ滞在9日目。この日で、コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)のすべての日程が終了する。エリス・パークのメディアセンターに到着すると、ちょうどルステンブルクで行われている3位決定戦は、0−0のスコアで後半に突入していた。準決勝のブラジル戦に続き、この日もバファナ・バファナ(南ア代表の愛称)は強豪相手によく健闘している。

 ちらちらとモニターを見ながら、たまった原稿を書いていると、いきなり「おおお!」という歓声が起こった。あわてて顔を上げると、なんと南アが先制ゴールを挙げているではないか。ツハバララの右からのクロスに、ムペラが中央でワントラップシュート。カシージャスの守るゴールを破って南アが先制。この劇的な展開に、メディアセンターでは景気よくブーブーゼラが鳴り響いた。どうやら一部の記者たちの間でも、ブーブーゼラは人気アイテムとなっているようだ。

 しかしスペインも、ぎりぎりの時間帯で欧州王者の意地を見せる。後半43分と44分、グイサが連続ゴールを決めて一気に逆転。とくに2点目は、右サイドからのクロス気味のボールが、そのままサイドネットを揺らしてゴールインという、南アにとってはどうしようもない失点であった。メディアセンターでは一転、ため息が充満する。しかし後半ロスタイム、またしても南アが奇跡を起こす。ペナルティーエリア前でのFKのチャンスから、ムペラが中村俊輔ばりのセットプレーを決めて2−2。再びメディアセンターは、歓声と拍手、そしてブーブーゼラが鳴り響く。

 試合はそのまま延長戦に突入。その後は一進一退の攻防が続いたものの、延長後半2分、シャビ・アロンソのFKが直接決まってスペインが勝ち越しに成功する。さすがの南アも、これ以上の反撃を望むべくもなく、3−2で試合終了。スペインの3位、南アの4位がここに確定した。それまで、モニターにくぎ付けになっていた記者やボランティアスタッフも、試合終了とともに仕事に戻り、再びメディアセンターには静けさが戻った。
 さあ、いよいよ残すは決勝戦のみ。ファイナルの舞台に登場するのは、スペインを2−0で撃破して世界を驚かせた米国、そして大会2連覇を狙うブラジルである。

ブラジル、怒とうの3ゴールで逆転に成功

決勝で米国に逆転勝ちを収め、連覇を達成したブラジル 【Getty Images】

 試合前「できるだけ早い時間帯で先制したい」と語っていたのは、ブラジル代表のドゥンガ監督。米国の勢いとカウンターへの警戒から、前半のブラジルは試合の主導権を握ることをまず目指した。持ち前のテクニックだけでなく、フィジカルでも強さを発揮する南米王者に、なかなか攻撃の糸口をつかむことができない米国。それでもスペイン戦同様、この日も彼らが先制ゴールを挙げた。

 前半10分。反撃に出た米国は、右サイドバックのスペクターからの低めのクロスを、デンプシーが右足インサイドで触って巧みにコースを変え、ボールはあっという間にブラジルゴールの左隅に吸い込まれていく。いきなりの失点に出はなをくじかれたブラジルは、13分にはロビーニョ、25分にはフェリペ・メロ、そして26分にはマイコンと、連続して際どいシュートを放つものの、いずれもGKハワードの好セーブに阻まれる。

 ゲームを動かしているのは、間違いなくブラジルだ。対する米国は、3ラインをコンパクトにしながら、常にカウンターのチャンスをうかがうサッカーに徹していた。そんな彼らの持ち味がいかんなく発揮されたのが27分。ブラジルのパスミスをインターセプトすると、一気に前線に走り込んでいたドノバンにボールが渡り、ダビースとのワンツーを挟んで最後はドノバンが左足でゴールネットを揺らす。ブラジル相手に、米国が2−0――女子サッカーの試合ではない。これはコンフェデ杯の決勝なのである。

 もっとも、あのブラジルがこのままで終わるはずがなかった。後半開始のホイッスルから45秒で、いきなりブラジルがゴールを挙げる。右サイドの素早い崩しから、マイコンのクロスを前線のルイス・ファビアーノが受け、鮮やかな反転から相手DFのマークをはずして、そのまま米国ゴールを突きさす。ルイス・ファビアーノの貴重なゴールで息を吹き返したブラジルは、その後さらに前傾姿勢を強めていった。右からマイコンが、左からロビーニョが、何度となくサイドを崩して絶妙なクロスを入れてくる。それでもDF陣の献身的な守備と、守護神ハワードの神懸かったセーブの連発によって、何とか米国は持ちこたえていた。だが、それでもブラジルの追加点は時間の問題であった。

 後半29分、カカが左から切り込んで、うなるような低いクロスを供給。ファーで待ち受けていたロビーニョのシュートはバーにはじかれるが、これをすかさずルイス・ファビアーノが頭で押し込む。これで2−2。さらに39分には、コーナーキックのチャンスから、ルシオがデンプシーとの空中戦を制してゴールネットを揺さぶり、ついにブラジルが逆転に成功。その後、ブラジルは余裕のパスまわしで試合を殺していく。必死で走り回り、最後まであきらめずにボールを追い続ける米国。しかし、その努力も空しく、そのまま3−2でタイムアップとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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