第8回 ライオンに癒され、励まされ(6月27日@ヨハネスブルク)=宇都宮徹壱の日々是連盟杯2009

宇都宮徹壱

ライオンづくしの決戦前夜

ヨハネスブルク郊外のライオン・パークにて。今さらながらに、ここがアフリカであることを確認できた 【宇都宮徹壱】

 南アフリカ滞在、8日目。26日に引き続き、この日も終日フリーだったので、思い切り観光に充てることにした。久々に早起きすると、敬愛やまない同業者、中田徹さんの運転するレンタカーで一路「ライオン・パーク」へ。しばしサッカーのことは忘れて、ひたすら野生動物と戯れることにした。

 今回、日本からコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)の取材に訪れた日本のメディア関係者は、その大半が『地球の歩き方 南アフリカ』編をリュックの中に入れていたと思われるが、その表紙には、ライオン・パークのライオンの子供と戯れる旅行者のイラストが描かれている。当初、私はそれを見て「けっ」と思ったものだ。そんなお気楽な気持ちで、現地に向かう気分にはさらさらならねえや、と。とはいえ、さすがに南ア滞在から1週間も過ぎると、ようやく気持ちのゆとりも出てきて「帰国する前に、子ライオンと戯れてもいいかな」と思うようになっていた。生来、動物は好きな方だ。そんなわけで、わくわくドキドキ、大人げもなくライオン・パークへ向かうことと相成った。

 ライオン・パークへは、ホテルがあるサントン地区から車でおよそ45分ほど。午前8時からオープンしているので、できるだけ早い時間帯に訪れることをお勧めする。入場料は100ランド(約1200円)。たった100ランドで、生後3カ月の子ライオンと記念撮影ができて、キリンに直接えさをやることができて、さらに“疑似サバンナ”を車で移動しながら野生動物(ライオンを含む)をフロントガラス越しに間近で見ることができるのである。ひととおり野生を実感してから味わう、施設内のレストランのメニューも、なかなかに良心的な価格帯だ。来年、当地を訪れる際には、このライオン・パークに立ち寄ることを強くお勧めする。癒されること、間違いなし。

 夜、サントン地区にあるネルソン・マンデラ・スクエアのステーキ屋で夕食。ここではうまい肉とワインが、日本の5割以下の値段で味わえる。この日も、3人でワインを2本と、食べ切れないほど分厚い牛ステーキを各自オーダーして、1人当たりの支払いは330ランド(約4000円)。少なくとも食事に関して、南アは「楽園」と言ってよい。

 ちなみにネルソン・マンデラ・スクエアの各レストランでは、赤いレプリカジャージを着た「ライオンズ」のサポーターであふれ返っていた。「ライオンズ」とは、現在南アに遠征中のラグビーのブリティッシュ&アイリッシュのことで(※4年に1度、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドから選ばれた代表チームが「ライオンズ」の名前で、南アフリカ、オーストラリア、ニューランドに遠征している)、今回のアウエー戦を観戦すべく、英国とアイルランドから相当数のラグビーファンが南アを訪れている。私はラグビーについては門外漢だが、あらためて英国ラグビーファンの熱意と行動力には、新鮮な驚きを禁じ得なかった。と同時に、こうも思った。来年のワールドカップ(W杯)では、意外と多くのサッカーファンが、この地を訪れるのではないか――と。ともあれ、ライオンズファンの盛り上がりを見ながら、何となく来年のW杯に希望が持てた次第である。

あらためて来年、W杯観戦を考えている皆さんへ

サントン地区のお土産屋で売られていた「ブーブーゼラ」。楽しかったコンフェデ杯も、あと1日で終わりだ 【宇都宮徹壱】

 さて前回に引き続き、今回のコラムでは、来年のW杯に参戦しようと考える日本のファンに対して、現地から可能な限り有効な情報を発信したいと思う。今回は、前回言及した治安以外の部分での「お役立ち情報」を、シンプルにまとめてみることにしたい。

3〜4人でチームを組む

 まず前提としてお勧めしたいのが、これである。はっきりいって、南アでのW杯観戦において、単独行動はどう考えても不利である。サントン地区の、ある程度セキュリティーが整ったホテルなら、1泊で1万円は軽く超えるし(W杯期間中は、さらに高騰することが予想される)、タクシーにしてもプレトリアへの往復で9000円近くはかかる。そう考えると、3〜4人でチームを組むことは、コストの削減でも犯罪抑止の面でも、極めて有効であるといえよう。とりわけ女性の場合、単独行動は論外である。可能な限り、男性のチームメートを探すことをお勧めする。ちなみに私が投宿しているホテルでは、寝室が3部屋に分かれていたので、かなりプライバシーが確保できる構造になっていた。こうしたタイプのホテルは、当地では決して珍しくないように思える。

拠点はやはりヨハネスブルク

 日本代表がどの会場で試合をするかにもよるが、拠点はヨハネスブルクに定める方が無難だろう。今大会の開催9都市のうち、ヨハネスブルク(エリスパークとサッカーシティの2会場)を含めて、ポロクネワ、ネルスプリット、ラステンブルク、プレトリア、そして(ちょっと無理をすれば)ブルームフォンテーンまでが、タクシーでカバーできる距離にある。逆に、飛行機でアクセスしなければならないのが、ダーバン、ポート・エリザベス、ケープタウンの3都市。そう考えるならば、やはり観戦のベースをヨハネスブルクに定めるのがベターであろう。

来年6月の南アの気候

 次回のW杯は、1978年アルゼンチン大会以来の「冬のW杯」となる。ゆえに、防寒対策には、それなりに気を使ったようがよいだろう。ヨハネスブルク、およびその周辺は、昼間はそこそこに温かい「小春日和」だが、夜になるとやはり寒い。また、南アは総面積が日本の3倍もあり、各地によって気候や気温に微妙な差があることも留意すべきであろう。先日、訪れたブルームフォンテーンでは、夜間の気温が氷点下近くまで下がった。またケープタウンでは、この時期、かなりの確率で雨が降るそうである。ゆえにゴール裏で応援する人たちは「Jリーグ終盤の雨の日の装い」を準備した方がよさそうだ。

持ってきた方がよいもの(思いつくままに)

1)レトルト食品:試合後、夕食を食べ損ねる可能性が高いので。特にカップめんは意外と重宝するかも
2)携帯用ライト:スタジアムは全般的に暗い。チケットのシートナンバーを確認するのに便利
3)携帯用ざぶとん:スタンドの観客席は冷たい。空気でふくらむざぶとんがあると、お尻の冷たさを気にせず観戦できる
4)リップクリーム:現地は想像以上に乾燥しているので
5)笑顔:危険、危険と言われる南アだが、地元の人々は明るく親しげに話しかけてくる。その際には、笑顔で受け応えしたいものだ

<翌日に続く>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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