明らかになった課題と希望=宇都宮徹壱の日々是連盟杯2009

宇都宮徹壱

悪いなりに結果を残したブラジル

試合前の国歌斉唱で盛り上がる南アサポーター。彼らの存在こそが、来年の本大会に向けた明るい材料であった 【宇都宮徹壱】

 先のイタリア戦(3−0で勝利)では、序盤から締まったゲーム展開を見せていたブラジル。だが、この日の彼らからは、どうも緩さが感じられる。明らかに技術的には劣る南アにたびたびチャンスを作られているのだから、これは南アの素晴らしさ以上に、ブラジルの試合の入り方に問題があったと見るべきであろう。当初はブラジルが一方的に押し込む展開が予想されたが、逆に南アのほうが次第にパスの精度とスピードが増していき、ブラジル守備陣を混乱させる場面さえ見られた。

 確かに、ホームの後押しを受けて、南アは頑張っている。だが、前日に米国のミラクルを許したスペインと比べて、この日のブラジルは明らかに精彩を欠いていた。そんな中、ひとり気を吐いていたのがカカである。37分には、自らドリブルで持ち込んで際どいシュートを放つと、42分にも相手のパスミスを拾って鋭くニアサイドを狙う。いずれも「本気になれば、こんなもんじゃない」と言わんばかりのプレーだが、南アの献身的な守備が奏功してゴールには至らず。ボールポゼッションは、ブラジル51%に対し、南ア49%。シュート数では、同じ7本ずつ。前半の南アは、ブラジル相手にほぼ互角の戦いを見せて、0−0でハーフタイムを迎えた。

 後半の注目点は、いわゆる「自分たちのサッカー」ができなかったブラジルが、どう修正してくるか、である。その答えが「個の力を前面に押し出すこと」。カカのドリブルやロビーニョのミドルシュートなど、後半のブラジルは個人能力での打開シーンが目立つようになる。これに対し、次第に受け身に回る時間帯が長くなりながらも、南アもまた驚異的な粘りから、時おり意表を突くような反撃を見せる。とはいえ、個としても、チームとしても、技術の低さと荒さはいかんともし難いところ。結局は最後まで崩し切れず、あまり怖くないロングシュートを放つばかり。こう着というよりも、いささか緩い展開が続き、このまま今大会初の延長戦に突入することも予想された後半43分、ついに均衡が破られる瞬間が訪れる。

 ペナルティーエリア前、絶好の位置でのFKのチャンスを得たブラジルは、途中出場のダニエウ・アウベスが渾身(こんしん)のキック。弾道は、まっすぐゴール右に突き刺さり、ようやくブラジルが先制ゴールを挙げる。ブラジルにとって、決勝進出のためには、この1点で十分だった。南アの健闘もむなしく、試合はこのまま1−0で終了。内容が悪いながらも、最後は個の力できっちり結果を出す。その意味では、いかにも「勝ち方を知っている」ブラジルらしい勝利であった。

敗れたバファナ・バファナと南ア国民に期待すること

 かくして、このゲームを制したブラジルは、3日後にヨハネスブルクで行われる米国とのファイナルに進出し、武運つたなく敗れた南アは、同じ日にラステンバーグで行われる、スペインとの3位決定戦に回ることとなった。前日の米国のミラクルを見て「もしかしたら」という国民の期待を受けたバファナ・バファナであったが、さすがにミラクルが毎日続くものでもあるまい。むしろ、このブラジル戦を含むコンフェデ杯では、自らの強みと弱みを再認識できたことが、彼らにとっての一番の収穫だったのではないか。

 いわゆる突出したタレントも“怪物”もいない南アにあって、正確なパスワークと鋭いカウンターこそが、世界と伍するために最も近道であることが、これではっきりした。10番を背負うピーナールも、ある意味、アフリカを代表するくらいのタレントではあるが、やはりこのチームでは「組織の中で生きるタイプ」として、存分に走り回ることが機能する条件となる。問題は、周囲の選手たちのプレーの精度が雑であること。切り札となるような選手に欠ける(すなわち選手層が薄い)こと。そして、前線に頼れる得点源となり得る選手が見当たらないこと。こうして見ると、開催国にとって来年への一番の課題は、やはり代表チームの強化であることが、今大会であらためて浮き彫りとなったと言えるだろう。本大会まで残り50週間。残された時間は、決して長くはない。

 その一方で、新たな希望も見えてきた。それは、このコンフェデ杯によって、来年のW杯が想像以上に盛り上がることが確認されたことである。自国の代表チームであるバファナ・バファナへの献身的なサポートと、欧州とアジアとも明らかに異なるアフリカならではの高揚感は、必ずやW杯の歴史に新たな一ページを刻むことになるはずだ。
 そもそも「W杯のリハーサル大会」という位置づけがすっかり定着したコンフェデ杯にあって、これほどまでに南ア国民が関心と盛り上がりを見せたことは、特筆すべきことであろう。残念ながら決勝進出こそならなかったものの、バファナ・バファナと南ア国民には、3位決定戦と決勝戦が行われる28日まで、大いに大会を盛り上げてほしい。そして「アフリカでも、これだけ楽しいW杯が開催できるんだ」ということを、この機会にぜひ、高らかに世界に宣言してほしいものである。

<翌日に続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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