第4回 現地領事が語る、南アでの危機管理=宇都宮徹壱の日々是連盟杯
W杯観戦はツアーに申し込むのが無難
ヨハネスブルグの旧市街。一見、平和そうに見えても、常に犯罪の危険が潜んでいることを忘れてはならない 【宇都宮徹壱】
「ホテルでタクシーを呼んでいただくのが、一番安全で確実な交通手段ですね。公共交通機関は、利用すべきではないと思います。鉄道を利用して被害に遭わなかったのは、仏教の僧侶とシスター(カトリックの修道女)くらいだ、という話もあるくらいですから」
――乗り合いバスや、流しのタクシーもあるみたいですが、やはり危険なんですか?
「車中よりも、降りた直後にトラブルに遭うことが多いようです。降りて、周囲を見渡しているうちに囲まれたり、羽交い締めにされたり」
――スタジアムまで、バスでピストン輸送をすることはないのですか?
「そういう話はあるにはあるのですが、タクシー業界からの強い反発があって、なかなか話がまとまらないのが実情です。現職のズマ大統領は、左派勢力に支えられているのですが、タクシー団体の労組の支援を受けてきた経緯もあり、これが現政権のアキレス腱となっています。おそらくは大会直前には落としどころが見つかるとは思いますが」
――交通と並んで心配なのが、宿の問題です。南アでは、セキュリティーも万全な宿を確保するのが、かなり大変だと思うのですが
「おっしゃる通りです。宿は確保してから来てください、と申し上げてはいるんですが、勝ち上がりによって、試合会場が変わってしまうのはネックではありますね」
――たとえば日本がグループリーグで1位になるか、2位になるかで、その後の試合会場は変わってくる。そうなった場合、現地で次のホテルを探さないといけないわけです
「確かに、そこは難しいところです。現時点で言えることは、ツアーで申し込まれていただくほうが、交通についても宿についてもリスクは少ない、ということですね。具体的にいえば、西鉄旅行、近畿日本ツーリスト、JTBの3社が、FIFA(国際サッカー連盟)が定める『ツアーオペレータープログラム』を販売する権利を持っていますので、そちらのツアーのご利用を考えたほうがよろしいかとは思います。実際、そういったパックツアーに関する被害報告は、今のところこちらには届いておりませんし」
南ア大会は「間違いなく開催される」
「間違いなく開催されると思います。『アフリカだから』というネガティブなイメージもあるかもしれませんが、一方でこの国には、潜在的なパワーは相当あります。こちらの人たちも、W杯開催に関しては、かなりのプライドを持っていますし」
――実際、ラグビーのW杯を開催した実績もありますからね
「ラグビーと、クリケットのW杯の実績もあります。これにサッカーを加えれば、これだけのW杯を開催したのは英国に次いで2番目ということになります。このW杯を成功させれば、次は五輪でしょうね。ちなみに今回のコンフェデ杯では、ちゃんと時間どおりにキックオフできていました。これはアフリカでは、非常に珍しいことなんです(笑)」
――そうした現状を踏まえて、日本大使館としては、来年のW杯に向けてどのようなことを訴えていきたいとお考えでしょうか?
「日本大使館としては、安全面での注意を喚起しつつも、それでも南アの魅力は伝えていきたいと考えております。日本と南アは、距離的に離れていることもあって、非常に『遠い国』という印象があるかと思います。それでも、たとえばJETプログラム(公立中学・高校への英語教育スタッフ派遣を目的としたプログラム)では、この12年間で300人もの人材が南アから派遣されていますし、こちらの日本文化への関心も非常に高いです。『オタクマガジン』という、アフリカ初のアニメ雑誌も発刊されたくらいですから。本当にこの国は、私たちを驚かす話には事欠かないんですよ」
以上、在南ア日本大使館の見解としては、来年のW杯は「間違いなく」ここ南アで開催されるそうだ。現地を取材している私も、同じ意見である。となれば、ボールはすでに、われわれの側にあると考えるべきだろう。いかにわれわれが覚悟を決め、行くか止めるかの決断を下し、その上で行くとなったら、どれだけの情報を集めることができるか――本大会の開幕まで1年を切った今、試されているのは私たち自身なのである。
ちなみに在南ア日本大使館では、邦人の安全確保の観点から、持てる情報は可能な限り開示する立場である。より詳しい情報は、リンク先を参考にしていただきたい。
<翌日に続く>