水戸、強化費8000万円チームの奮闘=貧乏クラブの好調を支えるもの
強化費8000万円で5位 好調を維持する水戸
昨季活躍したパク・チュホ(右)。彼も水戸から羽ばたいていった1人だ 【写真は共同】
某サッカー専門誌で取り上げられた、選手年俸の特集の中で、1億6000万円の日本人Jリーガーを見つけた水戸ホーリーホックのクラブ幹部が、笑いながらこうつぶやいた。水戸の今季の強化費は、およそ8000万円強。今季でJリーグ参入10年目を迎えるものの、いまだにリーグ最低水準のままだ。A契約選手はわずか6人。さらに財政的な問題でJクラブで唯一、シーズン前にキャンプを行わなかったという厳しい経営状態を強いられている。
そんな貧乏クラブが、今季は快進撃を続けている。第15節終了時点で、7勝3分4敗の5位。昇格争いに加わる勢いを見せているのだ。ただ上位につけているだけではなく、その戦いぶりも特筆すべきものがある。現在、リーグ3位タイの23得点を挙げていることからも分かるように、J2でも屈指の攻撃サッカーを繰り広げているのだ。リーグ最低水準の強化費のチームが、娯楽性の高い攻撃サッカーで結果を出している。この事実にこそ、大きな価値があると言えるだろう。
就任2年目で開花した木山監督の「攻撃サッカー」
この好調を導いているのが、木山隆之監督だ。水戸を率いて2年目、37歳のJリーグ最年少監督が水戸に植え付けたものは「攻撃サッカー」。自身「点を取ることやゴールシーンをたくさん作れるサッカーが、いいサッカーだと思っている」と語るように、ゴールに向かっていく意識を、選手たちに強く持たせることに時間を割いた。それまでの水戸は守備的なイメージが強かったが、木山監督が就任すると一変、攻撃的なチームへと生まれ変わることとなった。
しかし、その改革が最初からうまくいったとは言い難い。「ドラスティックに変えようとしすぎた」と指揮官が振り返るように、急激な変化に選手たちは戸惑いを隠せず、昨シーズンは第1クール終了時点で最下位に沈み、リーグワーストの28失点を喫するなど苦しいスタートとなった。それでも監督は「これでいいのかな?」「本当に自分のやっていることは正しいのかな?」と常に自問自答しながらも、攻撃的なサッカーを貫くことでチームは前進していった。第14節にパク・チュホが加入したこともあり、攻撃サッカーの精度は増していく。第1クール14試合でわずか2勝だったチームが、第2クール以降の28試合では11勝を挙げ、確かな手ごたえをつかんだままシーズンを終えることとなった。
今季の序盤戦での好調の陰には、去年からの攻撃サッカーの蓄積を抜きに語ることはできない。「昨シーズン、継続できたことが一番大きいと思います。失敗したことも、良かったことも、全部がためになっているし、チームの力になっている」と、木山監督も自信に満ちた表情で語っている。
「ポゼッションは死語」という発言の真意
「守備的なチームというのは、ボールを保持するためのポゼッションをする。でも、攻撃的なサッカーをするチームというのは、ゴールに向かうポゼッションをする。ポゼッションに長いパスも短いパスもなく、ボールを前に運ぶことが一番大事なこと」
この発言だけでは、誤解されるかもしれないので補足すると、木山監督は中盤でボールを回すことを決して否定しているわけではない。ただ、日本のサッカーは、つなぐことに満足してボールを前に運べないことが多く、ゴールに対する意識が希薄になってしまう。だが言うまでもなく、サッカーはゴールを奪うスポーツ。そのためにも「もっとボールを前に進めるべき」というのが、監督の考えなのである。
実際、水戸のサッカーには、木山監督の考えが色濃く反映されている。シンプルに前線にボールを入れてから攻撃を展開。単調になることも多いが、縦パスを重視し、執拗(しつよう)にゴールに迫る攻撃は、相手DFにとって厄介なことこの上ない。パスをつないでもシュートまで行けない日本代表とは、対照的なサッカーを繰り広げている。これまでの15試合のうち、無得点はわずか1試合のみ。この数字からも、木山監督の目指すサッカーが浸透していると言えるだろう。