不振が続く千葉ロッテに感じた深いきずな 

永田遼太郎

すべてを物語る清水直の言葉

井口に抱きつくバレンタイン監督。この姿からも分かるように、指揮官と選手の間には強いきずながある 【写真は共同】

 6勝10敗、勝率3割7分5厘――。5位までが2差の団子状態が続く混パの中で、首位まで3.5差のリーグ最下位。
「長いシーズン戦っていると、たまにこういう事は起こりますし、千葉ロッテは結構それが多い球団なんです」
 千葉ロッテ選手会長の清水直行は開幕から続くチームの不振に苦笑いを浮かべていた。
 過去にさかのぼれば2002年に千葉ロッテは開幕11連敗を喫した歴史がある。さらに1998年には18連敗し、プロ野球記録を塗り替え話題を呼んだ。伝統的に好不調の波が激しいのが千葉ロッテという球団。それがリーグ開幕に来たのか、はたまたリーグ中盤戦に来たのか、現場に限って言えばそれだけのことである。

 多少気になるのは、開幕から16試合が経過した時点で、先発投手の勝ち星が2勝しかないところ。清水直行、小林宏之、渡辺俊介、成瀬善久らこの数年間、チームの核となった先発投手陣にいまだ勝ち星がない。しかし、開幕から数えて、まだローテーションは3巡目に差し掛かった程度。この時点で「ことしの千葉ロッテは……」と書きつづるにはあまりに短絡的過ぎやしないか。
「ここまで投手陣が総崩れになってくると、その逆もいずれ来ると思っているんですよね。どこかでバチっとハマリだしたら、10連勝くらいはできる投手力は持っているチームなんですが、そのときまで野手の人たちが我慢してくれればと思いますけどね。それもみんなチーム力なんで…」
 清水直の言葉がすべてを物語っている。筆者の答えもこれと何ら変わらない。

 野球は投打のバランスとよく言われるが、半年間の長いシーズンを戦えば、どこかでそれが崩れる時期が必ずやって来る。そうした時にチームがどう乗り越えていくかが本当のチーム力だ。そういう意味で言うなら、千葉ロッテが今後どう転んで行くかなんて誰にも分からない。個人的なスタンスとしてはまだ静観していようと言ったところだ。

信頼勝ち得た井口、奮闘する若武者・唐川

 明るい話題はある。
 今季からチームに加入した井口資仁の存在だ。開幕から4番として活躍をする井口は打率4割3厘、3本塁打、16打点で、千葉ロッテファンの信頼をすでに勝ち取っている。スタンドからの声援が最も盛り上がっているのも、井口が打席に入ったときだ。

 投手で言うなら先発陣で唯一の勝ち星を挙げている2年目の若武者・唐川侑己。
 4月15日の東北楽天戦で勝利した唐川に試合後ばったり会ったが「まだひとつ勝っただけですから……」とその日の勝利に浮かれることなく、その1勝の意味をかみ締めていた。
「次回のWBCには日の丸を付けて出たいんです」
 投げる試合は全部勝ちたいという彼の今季の最低ノルマは2ケタ勝利というから意気込みは半端ではない。2年目だからとか19歳だからとか言われるのが嫌いな唐川らしい考えだ。

 若武者の奮起に中堅、ベテラン勢も負けていない。この日、唐川を好リードした捕手の里崎智也は試合後、誰もいなくなったベンチ前で黙々とバッティングフォームをチェックした。早坂圭介と西岡剛の2人も約1時間のティーバッティングで汗を流すなど、今季は野球漬けの毎日を過ごしている。内外でさまざまなことがうわさされる千葉ロッテだが、現場はいつもと変わらず野球に専念している。
 こうした彼らの姿を、ロッカーで私服に着替えてきたバレンタイン監督もしばし足を止めて眺めていた。その表情はまるで子供たちを温かく見守る父親のようで、この上ない優しさに満ちていた。このシーンに筆者は、選手と監督のきずなの深さをこれまで以上に感じた。

 今季開幕前、「ボビーをもう一度、胴上げしたい」という声が選手たちの至るところから聞かれた。それはまるで合言葉でもあるかのようだ。かつては福岡ダイエーの選手として、千葉ロッテの前に立ちはだかった井口は言う。
「一度、調子に乗ると怖いチーム。表現は悪いですが少しお調子もの的なチームでいったん調子に乗ると手がつけられない感じがしました」
 トンネルはそう長くは続かない。この暗闇から抜け出したとき、05年の優勝時に劣らないボビーマジックが幕を開けるはずだ。戦いはまだ始まったばかりである。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、茨城県出身。格闘技雑誌編集を経て、2004年からフリーとして活動開始。同時に、学生時代の野球経験を生かし野球ライターとしての活動もスタート。中学生からプロに至るまで幅広い範囲で野球取材を行っている。少年時代からのパ・リーグびいきで、現在は千葉ロッテマリーンズと西武ライオンズを主に取材。『ホームラン』(日本スポーツ出版社)、『スポルティーバ』(集英社)などの雑誌媒体の他、マリーンズオフィシャル携帯サイトやファンクラブ会報誌などにも寄稿している。

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