“ニッポンの新エース”が存在感を示した――１９日に最終日を迎えた競泳の日本選手権。男子２００メートル背泳ぎ決勝で、北京五輪代表の入江陵介（近畿大）が世界記録に０．０８秒差と迫る１分５４秒０２の日本新記録で優勝。入江は同種目５０メートル、１００メートル、２００メートルの計３種目で、世界選手権（７月・ローマ）の代表に内定した。

　ゴールの瞬間、入江は一瞬だけ悔しそうな表情を見せた後、スタンドの声援に笑顔のガッツポーズで応えた。「狙っていたので悔しいですね」。スタンドのファンはもちろん、入江自身が誰より世界新を期待していた。

　今大会では初めて、５０メートル、１００メートル、２００メートルの３種目にエントリー。５０メートルと１００メートルでは、日本新を連発した新星・古賀淳也（スウィン埼玉）の陰に隠れたものの、いずれも自己ベストを更新し、苦手のスプリントでも強さを発揮した。その裏には昨夏の苦い記憶があった。

　初出場した北京五輪で２００メートル５位入賞を果たした入江だが、本人にとってはベストタイムから１秒近く遅れる不本意な結果（１分５５秒７２）で悔いが残った。五輪後は、最大の武器である美しいフォームをより生かすために、苦手とするバサロキックの改善に取り組んだ。その結果、今年１月のコナミオープンでは、自身の持つ日本記録を０秒０３短縮する１分５４秒７４で優勝し、進化した姿を見せた。

　最終日の２００メートル決勝を前に、すでに５レースを泳いだ入江。当然、肉体的疲労はピークに達していたが、「世界選手権では１種目３本（予選、準決勝、決勝）あるので、しんどいとか言っていられない」と自らを奮い立たせた。そこにあるのは、エースとしての自覚だった。

　北京後、五輪メダリストたちが相次いで引退し、今大会では北島康介（日本コカ・コーラ）も欠場。この状況が、入江に責任感を持たせた。
「康介さんをはじめ、上の世代がいなくなって、今回は自分がもっとしっかりしないといけないと思った。もちろん、周りから期待されているのも分かっています」

　昨年の同大会では、五輪選考会のプレッシャーにつぶされそうになり、涙を流した入江。しかし、今大会では終始、笑顔が目立った。
「今年はプレッシャーを力に変えられたと思う。７月の世界選手権まで、またプレッシャーはあると思うけど、康介さんみたいになれるよう、それを力に変えていきたい。北京で逃したので、ローマではいい色のメダルを取りたいです」
　名実共に日本のエースへと成長した入江がこの夏、世界のエースへと羽ばたく――。

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