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世界で輝く「○○ッチ」たち
旧ユーゴスラビアが生んだ才能

どこにでもいる「○○ッチ」

ストイコビッチ(後列左から2人目)率いるユーゴスラビアは90年W杯でベスト8入りした
ストイコビッチ(後列左から2人目)率いるユーゴスラビアは90年W杯でベスト8入りした【Photo:AFLO】

 ビディッチ(マンチェスター・ユナイテッド)、モドリッチ(トッテナム)、ブチニッチ(ローマ)……世界にはいったいどれだけの「○○ッチ」がプレーしているのだろうか。欧州のサッカーシーンではもちろん、今はアジアでさえも頻繁に耳にすることになった特徴ある名前。実は、彼らの出生起源をたどると、ある地域で共通していることに気づく。それは、かつて“東欧のブラジル”と称され、サッカー大国として名をはせた旧ユーゴスラビアである。


 旧ユーゴは、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアの6つの国家に分裂したが(コソボを含めると7つだが)、「○○ッチ」の名前は変わるはずもなく、今後も何十年、何百年と受け継がれるだろう。ちなみに、「〜ッチ(〜ic)」とは「〜の子」という意味。英語圏の「マク〜(Mc〜)」や、北欧の「〜セン(〜sen)」と同じ感覚だ。


 世界に目を向ければ、そこらじゅうに「○○ッチ」は存在する。日本、中国、韓国といったアジア、そしてサッカー王国のブラジルにも、彼らは「助っ人選手」としてプレーしている。当然、各クラブでは中心選手として、その功績が求められるわけだが、期待にしっかりと応える彼らの活躍ぶりを見れば、これからも旧ユーゴ勢力はますます世界へと広がっていきそうだ。

 ちなみに、欧州の主要リーグでプレーする外国人選手を出身国別で見ると、ダントツに多いのはブラジルで、2番目はアルゼンチン。そして、3番目は何を隠そう旧ユーゴ(※前述6カ国)である。この興味深い事実は意外と知られていない。

「若手発掘のために、サッカーボールを川に投げ込め」

 旧ユーゴが、有能なサッカー選手(または指導者)を伝統的に数多く輩出してきた一番の要因は何か。答えは至ってシンプルで、彼らが運動能力に長け、体格に恵まれていることが1つ。さらに、幼少時からクラブチームに所属し、競争意識が育まれることで、一流選手に求められる資質が培われてきたことも大きな理由だ。


 そこで、若手の才能をいち早く見抜き、クラブに招へいすることがチーム強化へとつながるわけだが、サッカーのプレー人口が多いお国柄故に、“金の卵”探しは時として困難を極める。

 ここで、ある1つの逸話を紹介しよう。1970年代、旧ユーゴサッカー界で最も輝いていたクラブの1つ、ボスニアのベレジュ・モスタルを率いていた故スレイマン・レバツ監督にまつわる話である。

 ボスニアきっての名将とうたわれたレバツだが、若くて才能豊かな選手をいかに効率よく自分たちのクラブに呼び寄せるかに頭を悩ませていた。有能な若手獲得こそがチーム強化につながると信じていたレバツは、チームスタッフと議論を重ね、その結果、いくつかのアイデアは浮かんだものの、どれも莫大(ばくだい)な資金を必要とするものばかりであった。しかし、レバツはある1つの結論に達し、独特のボスニア方言で次のように言い放った。


「いい加減に話し合いは終わりにしよう。われわれがやるべきことはただ1つ。それは、20個のボールを買って、すべてネレトバ川(モスタルに流れる清流)に投げ入れることだ。流れるボールに気づいた若者はすぐさま川に飛び込み、それを拾い上げる。そして、友人を呼び集めた途端に、キックオフの笛が鳴り響くだろう。数日経てば、われわれのクラブが必要とする選手のうわさがクラブに飛び込んでくるだろう」


 この、彼の斬新とも奇抜とも言えるアイデアが、チーム関係者に受け入れられたどうかは今となっては不明である。だが、この名将のユーモアある発言から、旧ユーゴという国が、有能なサッカー選手を次から次へと生み出す“源泉”と言われる理由がご理解いただけるだろう。

ブラディミール・ノバク/Vladimir Novak

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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