広島が“魅せるサッカー”でJ1に挑む=ペトロヴィッチ監督インタビュー

中野和也

就任4年目を迎える広島のペトロヴィッチ監督 【中野和也】

 昨シーズンのJ2で、開幕から最終節まで首位という史上初の快挙を成し遂げたサンフレッチェ広島が、2年ぶりにJ1へと戻ってきた。このチームを率いて4年目を迎えるミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、自陣のゴールエリアからショートパスをつなぎ、最終ラインの選手が相手のゴール前に飛び込んでくる超攻撃的なサッカーを推進。一方で、「息子たち」と呼んではばからない若い選手たちを次々に育成してきた。
 J2で強烈なインパクトを与えた広島の「人もボールも、人の心も動かすサッカー」(槙野智章)が、果たしてJ1で通用するのか。注目を集める“紫の指揮官”が、その思いを激白する。

試合こそベストなトレーニングである

――キャンプを振り返ってみて、手応えはいかがでしょうか?

 そういう質問に対して、「キャンプはうまくいっていない」などという監督さんは、ほとんどいないよ(笑)。でも、個人的な思いで言わせてもらえば、今年はわたしが指導した3年間のキャンプの中で、最も充実していたと思う。若い選手が成長を見せてくれたし、多くの選手が東欧の強いチーム(ディナモ・ザグレブ、パルチザン・ベオグラードなど)と厳しい練習試合を重ねて経験を積めた。わたしの哲学は、試合こそベストなトレーニングである、ということ。実戦を通して選手たちはたくさんのことを学び、成長していく。球際の強さや泥臭いプレーの重要性、それにクレバーなプレーの意味などは、強い相手との実戦を通してでなければ、体感できないことだ。

――とはいえ、主力にけがや病気などで離脱する選手が出たことは誤算では?

 その通りだ。特に痛いのは、森崎浩司(オーバートレーニング症候群)の不在だろう。浩司はわれわれのシステムにとって、攻守にわたって非常に重要な選手。彼がいれば、前線でボールが落ち着くし、攻撃も危険に仕掛けられるからね。彼はわれわれにとって必要な選手であり、彼の復帰を待ちたいと思う。
 森脇良太がひざの負傷で出遅れていることも、広島にとっては厳しい。後ろから攻撃を組み立て、数的優位を作っていく広島のサッカーにおいて、安定感のあるプレーを見せる彼の存在はとても大切だ。もっとも、森脇はキャンプの最終戦(2月25日、山形戦)で45分出場できたし、状況はポジティブではある。
 高萩洋次郎のグロインペイン症候群による離脱も含めて、彼らの不在は痛手だ。3人がいないとなれば、開幕からしばらく厳しい試合が続くかもしれない。そこでしっかりと生き残ることが、われわれにとって重要となる。

徹底してパスをつなぐサッカーにこだわる

――今季のJ1でも、昨年のような後ろからしっかりとパスをつなぐポゼッションサッカーで戦うのですか?

 もちろんだ。特に攻撃面では、去年よりもいい形が作れると思う。ただ、大切なのはミスをしないこと。特にビルドアップ時のミスは、J1では失点に直結してしまう。だからトルコキャンプでは、前から強いプレスをかけてくるチームとばかり戦った。強いプレスをかけるチームとの試合を経験することで、ビルドアップにおける確実性の向上を図りたかったからだ。
 この課題は、一朝一夕で劇的によくなるものではない。練習試合でもボールを失うシーンが多かった。だが、徹底して極端なまでに後ろからつなぐことを意識させたので、ミスが出るのは分かっていた。ミスをしないようにプレーするより、そこから学ぶことの方が(キャンプでは)大切だ。

――後ろから徹底してパスをつなぎ、最終ラインも積極的に攻撃参加する広島のサッカーは確かに魅力的ですが、一方でリスクもあります。どうして、このサッカーにこだわっているのですか?

 サッカーの面白さは、やはりゴールだろう。0−0よりも3−3の方が、同じ引き分けでも楽しいはずだ。プロサッカーとはもちろんスポーツだが、一方で見てくださる人があってのもの。見る人の興味を引きつつ、しっかりと勝利を得られるサッカーをいかに表現するか。わたしは、そこを考えている。
 例えばイタリアでは、以前は1試合に1点取れればいいというサッカーだった。「カテナチオ」という、相手の攻撃をいかにつぶすかを考える戦術が幅を利かせていた。一方、スペインはどの試合を見ても面白い。そして今、イタリアのサッカーも(スペインのように)変わりつつある。

 日本のサッカーは、負けることを極端に恐れている。「相手の攻撃をいかにつぶしていくか」というサッカーを訓練し浸透させていく方が、自分たちが仕掛けるサッカーを作るよりも、簡単なのだ。
 ただ、チームの発展性を考えると、相手の良さをつぶすサッカーには未来が見えてこない。G大阪や鹿島、川崎など、いくつかの日本のチームはそのあたりに気づいたのか、方向性は変わりつつある。日本のサッカー全体も、これから変わっていくと思う。

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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