広島が“魅せるサッカー”でJ1に挑む=ペトロヴィッチ監督インタビュー
就任4年目を迎える広島のペトロヴィッチ監督 【中野和也】
J2で強烈なインパクトを与えた広島の「人もボールも、人の心も動かすサッカー」(槙野智章)が、果たしてJ1で通用するのか。注目を集める“紫の指揮官”が、その思いを激白する。
試合こそベストなトレーニングである
そういう質問に対して、「キャンプはうまくいっていない」などという監督さんは、ほとんどいないよ(笑)。でも、個人的な思いで言わせてもらえば、今年はわたしが指導した3年間のキャンプの中で、最も充実していたと思う。若い選手が成長を見せてくれたし、多くの選手が東欧の強いチーム(ディナモ・ザグレブ、パルチザン・ベオグラードなど)と厳しい練習試合を重ねて経験を積めた。わたしの哲学は、試合こそベストなトレーニングである、ということ。実戦を通して選手たちはたくさんのことを学び、成長していく。球際の強さや泥臭いプレーの重要性、それにクレバーなプレーの意味などは、強い相手との実戦を通してでなければ、体感できないことだ。
――とはいえ、主力にけがや病気などで離脱する選手が出たことは誤算では?
その通りだ。特に痛いのは、森崎浩司(オーバートレーニング症候群)の不在だろう。浩司はわれわれのシステムにとって、攻守にわたって非常に重要な選手。彼がいれば、前線でボールが落ち着くし、攻撃も危険に仕掛けられるからね。彼はわれわれにとって必要な選手であり、彼の復帰を待ちたいと思う。
森脇良太がひざの負傷で出遅れていることも、広島にとっては厳しい。後ろから攻撃を組み立て、数的優位を作っていく広島のサッカーにおいて、安定感のあるプレーを見せる彼の存在はとても大切だ。もっとも、森脇はキャンプの最終戦(2月25日、山形戦)で45分出場できたし、状況はポジティブではある。
高萩洋次郎のグロインペイン症候群による離脱も含めて、彼らの不在は痛手だ。3人がいないとなれば、開幕からしばらく厳しい試合が続くかもしれない。そこでしっかりと生き残ることが、われわれにとって重要となる。
徹底してパスをつなぐサッカーにこだわる
もちろんだ。特に攻撃面では、去年よりもいい形が作れると思う。ただ、大切なのはミスをしないこと。特にビルドアップ時のミスは、J1では失点に直結してしまう。だからトルコキャンプでは、前から強いプレスをかけてくるチームとばかり戦った。強いプレスをかけるチームとの試合を経験することで、ビルドアップにおける確実性の向上を図りたかったからだ。
この課題は、一朝一夕で劇的によくなるものではない。練習試合でもボールを失うシーンが多かった。だが、徹底して極端なまでに後ろからつなぐことを意識させたので、ミスが出るのは分かっていた。ミスをしないようにプレーするより、そこから学ぶことの方が(キャンプでは)大切だ。
――後ろから徹底してパスをつなぎ、最終ラインも積極的に攻撃参加する広島のサッカーは確かに魅力的ですが、一方でリスクもあります。どうして、このサッカーにこだわっているのですか?
サッカーの面白さは、やはりゴールだろう。0−0よりも3−3の方が、同じ引き分けでも楽しいはずだ。プロサッカーとはもちろんスポーツだが、一方で見てくださる人があってのもの。見る人の興味を引きつつ、しっかりと勝利を得られるサッカーをいかに表現するか。わたしは、そこを考えている。
例えばイタリアでは、以前は1試合に1点取れればいいというサッカーだった。「カテナチオ」という、相手の攻撃をいかにつぶすかを考える戦術が幅を利かせていた。一方、スペインはどの試合を見ても面白い。そして今、イタリアのサッカーも(スペインのように)変わりつつある。
日本のサッカーは、負けることを極端に恐れている。「相手の攻撃をいかにつぶしていくか」というサッカーを訓練し浸透させていく方が、自分たちが仕掛けるサッカーを作るよりも、簡単なのだ。
ただ、チームの発展性を考えると、相手の良さをつぶすサッカーには未来が見えてこない。G大阪や鹿島、川崎など、いくつかの日本のチームはそのあたりに気づいたのか、方向性は変わりつつある。日本のサッカー全体も、これから変わっていくと思う。