高い目標設定で“強い大宮”に変わる=大宮アルディージャ 張 外龍監督インタビュー

土地将靖

グアム、宮崎でのキャンプを経て、チームの仕上がりに手応えをつかんだ張監督 【写真提供:大宮アルディージャ】

 有言実行の人である。大言壮語とそしりを受けることを恐れずに、大いなる目標を打ち立てる。並々ならぬ努力を積み重ね、目標を現実へと昇華させることで、次への道を切り開いてきた。毎年J1残留争いから抜け出せないチームにあって、一足飛びに「AFCチャンピオンズリーグ出場」(=トップ3)をぶち上げた張 外龍(チャン ウェリョン)監督に、その道筋を尋ねてみた。

ボールを奪ってから7秒以内にフィニッシュへ

――2009年シーズンの開幕が間近に迫っています。チーム作りはいかがでしょうか?

 順調に仕上がってきていると感じています。グアムキャンプでは選手がコンセプトを理解してくれること、宮崎キャンプでそのコンセプトを表現できるように、とイメージしていましたが、栃木SCとの練習試合(2月21日、3−3)でも今まで積み上げてきたことを表現してくれました。何より、選手全員から「今年こそ大宮を変えよう」という気持ちが強く伝わってきています。現在の状況は、ある程度満足できるものです。

――あらためて、張監督が目指す大宮のサッカーのコンセプトを聞かせてください

 攻守の切り替え、特に守から攻への切り替えの速さを求めていきます。これは、全選手が共通して理解していないといけません。今までは、ボールポゼッションも位置がすごく低いという印象がありました。今後はもっと前でポゼッションして、サイドを使って仕掛けたり、より攻撃的な色を出していきたいと思っています。ボールを奪ったら、まずゴールを目指す――ここが昨年までとは大きく違うところです。具体的には、奪ってから7秒以内にフィニッシュまで持っていきたい。本当は、7秒でも遅いぐらいですけどね。

――就任時には「走るサッカー」「サッカーは走りだ」というコメントもありましたが

 わたしたちがやっているのは陸上競技ではありません。目が走り、口が走り、体が走る――適切な状況判断をし、コーチングし合い、そして走る。これによって、初めて「走るサッカー」というものになります。選手たちも初めはわたしのことを、走るだけのトレーニングを行う監督だと思っていたようですが、時が経つにつれて、そうではないと分かってきてくれているようです。わたしも、効率の悪いことはやりたくないですから。

――その「走るサッカー」の選手たちへの浸透度はどうでしょうか?

 少しずつ“走れる”ようになってきています。ですが、ちゃんと“走れる”ようになるには、1年かかるか10年かかるか分かりません。それができれば一流選手です。毎日わたしたちコーチングスタッフが口を酸っぱくして言い続けながら、基本を忠実にやっていきます。「基本に忠実」。それが、2009年の大宮のキャッチフレーズです。

「強くなったね」と言われるように変えていきたい

――そうしたコーチングスタイルは、いつ築かれたものですか?

 仁川ユナイテッド(韓国)で監督をしていたときから、やり方はまったく変わっていません。ヘッドコーチとして仁川に加わりましたが、わずか半年後には監督になってしまいました。本当は、1年間コーチとしてチームを見定めて、次の年に監督になる予定だったのです。その時も、今までと同じように自分のスタイルを貫き通しました。目標を立てる、その目標が高いほど力は出るものだと信じて、“プレーオフ出場”という大きな目標を設定し、それを実現させました。

――大宮では、何か新しい試みは?

 選手たちにアンケートを取って、面接をしています。「2つのポジションをできなければ駄目だ」と話しました。そのとき、多くの選手が同じことを言っていました。「シーズンの初めはすごくいいけど、その後、夏場に連敗してしまう」。そこでわたしが必要だと思ったのは、まず自信をつけさせること。そして、目標設定がもっと必要になってくる、ということですね。

――目標を設定し、それに向かって突き進んでいくという、張監督自身のスタイルなんですね

 いつでも自分は、目標を高く立てています。自分が現役選手のときも、選手である以上は代表選手を目指していました。初めはFWでプレーしていて、高校時代にはストライカーとして名前が売れていましたが、大学に入って1年生ですぐレギュラーになるには、左サイドバックしか空いていませんでした。わたしが入った大学(延世大)は代表選手ばかりの強豪で、その中で唯一、左サイドバックだけは4年生が卒業してポジションが空いていたのです。自分はFWだし、そもそも利き足も右なのでどうだろう、と思いましたが、試合に出る、と決めたからにはそのポジションを目指しました。

 まず何から始めたかというと、合宿所の掃除。1年生は合宿所の掃除をしなければいけないのですが、みんなと一緒にしていたら練習時間がなくなってしまいます。なので、朝5時に起きて、みんなの分も掃除しました。6時からは山登り40分、左足の正確性を高めるためにキック200本。もちろん通常の練習メニューもこなして、夜はフィジカルトレーニングと縄跳び。それを続けて、1年生でU-19代表に選ばれることができました。

 学生時代の練習量は、誰にも負けない自信があります。だけど、今は時代も違いますし、世界的な傾向として、きつくなったときには休んでしまう。本当は、そこで休んでは駄目なんです。乗り越えないと。本当にきつくなったときにどうするか、それが相手に勝つことにつながるんです。そうしたものが身につけば、自信に変わりますよ。

――大宮にもそれを?

 「大宮のここが変わる」と言っても、そう大きく変わるものはあまりありません。サッカーはそういうものではないからです。ですが、あえて言うなら「大宮は強くなったね」と言われるように変えていきたい。チームそのものが強くなるのももちろんですが、まず、1対1の競り合いとか精神力とか、そういうところが「強くなったね」と思われるようにしたいですね。

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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