相馬も参戦! 注目のマデイラ勢=市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」

市之瀬敦

相馬がポルトガルを目指したことの必然

相馬がステップアップするには、マリティモは良いクラブだといえる 【Photo:アフロ】

 ポルトガルリーグの日本人選手と言えば、02−03シーズンにスポルティング・ブラガに所属した廣山望(現ザスパ草津)を思い出す。残念ながらけがもあり、廣山は実力を発揮できないままブラガでの挑戦を終えてしまった。その影響もあって、ポルトガルで日本人がプレーする可能性は薄らいでしまったとも思われた。

 しかし、ポルトガルリーグのレベルとそのテクニカルなサッカー、ブラジル人選手の多さ、さらには日本人に対するポルトガル国民の好感情などを考慮すれば、Jリーガーのヨーロッパ挑戦の最初のステップとして、ポルトガルという選択肢はかなり良いのではないか――そう、わたしはかねてから考えていたのである。相馬自身、ドイツやフランスからもオファーがあったそうだが、ポルトガルサッカーの特徴を考えてマリティモを選んだと、記者会見で述べていた。
 相馬の選択がさらに良かったと思うのは、いきなりベンフィカやポルトのようなビッグクラブを狙わず、マリティモという欧州カップ出場権を目指す中堅クラブを選んだ点である。ポルトガルリーグの中位に位置するクラブから、欧州カップを目指すというのは、実に現実味のある方法だと思うのである。

 思えば、マリティモというクラブ自体、Jリーグとまるで縁がなかったわけではない。昨季の監督は、以前横浜F・マリノスを率いたブラジル人セバスティアン・ラザロニ監督であったし、今季のブラジル人監督ロリ・サンドリも、かつては東京ヴェルディ(当時は東京ヴェルディ1969)で監督をしていたことがある。しかもロリ・サンドリ監督は、相馬のことを以前から知っていたというではないか(※相馬が東京Vに入団した03年当時の監督。ただし開幕から2カ月後に退任)。極論かもしれないが、相馬は運命の糸に導かれて、マデイラ島へと渡ったと言えないこともないだろう。

日本人選手の入団がマリティモにもたらすもの

 さて、チームでは「TAKA」という登録名をもらった相馬は、背番号77を付け、さっそくリーグ戦2試合続けて先発出場した。チーム合流直後の紅白戦を見た記者の間では、1対1の強さ、スピード、そしてクロスの精度を評価されていた。実際、出場した試合でも、そうした評価を裏切らないようなプレーを披露。質の高いクロスで、何度かチャンスを生み出している。悪くない滑り出しだと思う。

 相馬獲得の背景についてクラブ側は、プレーヤーとしての評価のほかに、日本サッカーというマーケットの扉を開けるという目的もある、としている。相馬の背後には、ジャパンマネーなるものがちらついて見えるのかもしれない。が、相馬自身はピッチで答えを出せばよい。そして、マリティモで確固たる地位を築き、ヨーロッパでさらにハイレベルな舞台を目指せばよいのだ。

 わたしは以前から、ポルトガル、ブラジル、そして日本をサッカーという線で結び付け、三角形を描くことができるのではないかと考えてきた。すでにブラジルとポルトガル、ブラジルと日本は太い線で結ばれている。残りは、日本とポルトガルをつなぐ線である。だがそれも、昨夏ポルトに移籍したフッキの活躍、さらに相馬のマリティモ加入によって、思ったより早く実現するのではないか。そんな期待が膨らむのである。

絶対的候補のいない優勝戦線

 最後に、ポルトガルリーグの優勝争いにも触れておきたい。
 全部で30節あるリーグ戦も、すでに第18節を終えた。首位に勝ち点38を挙げているポルトがいるのは毎度のことという観もあるが、勝ち点1差の2位にベンフィカ、さらに3位と4位に勝ち点34を重ねているレイソエスとスポルティング・リスボンが続いているのは、いつになく緊迫感を抱かせてくれる。優勝争いはまだまだ予断を許さない状況だ。

 前回のコラムで紹介したレイソエスは、残念ながら12月に入って首位の座をベンフィカに譲ってしまった。しかし、今なお3位に位置しているのは立派としか言いようがない。まだ“海風”は止んでいないのだ。ここまで健闘してきたのだから、優勝は望めないにしても、ぜひとも5位以内に入り、来シーズンのUEFAカップ(来季からはUEFAヨーロッパリーグだが)の出場権を確保してほしい。

 一方、せっかく久しぶりに首位に立ったベンフィカだが、首位恐怖症なのか、すぐにポルトにその座を明け渡してしまった。しかし、ここにきて期待のパブロ・アイマールが調子を上げ、真価を発揮し始めたのは好材料。今月8日に行われたポルトとの「クラシコ」では、彼こそが現在のベンフィカの中心選手であることを証明するようなプレーを見せてくれた。21日にはスポルティングとのリスボン・ダービーが待っている。アイマールが再び輝いてくれれば、ベンフィカに勝利がもたらされるだろう。また、3月に入るとすぐに、ポルト対スポルティングの「クラシコ」もある。この2試合の結果によって、優勝争いの見通しもおおよそつくのではないか。

 いずれにしても、今年のポルトガルリーグは例年以上にわくわくさせてくれる。最後に笑うのはやっぱりポルトなのか。それともキケ監督が就任1年目で、いきなりべンフィカに栄冠をもたらすのか。あるいは、今季限りでスポルティングを退団しそうなベント監督が有終の美を飾るのか。はたまた信じられないサプライズがあるのか。5月まで楽しみに待つことにしよう。

<了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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