相馬も参戦! 注目のマデイラ勢=市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」

市之瀬敦

「オ・ケ・エ・ナシオナル・エ・ボン!」

すでに2試合に先発出場したマリティモの相馬 【Photo:アフロ】

 最初の小見出しをポルトガル語で始めるのは気が引けるところもあるのだが、今季ポルトガルリーグを見ていると、このフレーズを思い出さないわけにはいかない。意味はというと「ナショナルなものは良い」。詳細はよく分からないのだが、かつてあるポルトガル企業が、国産製品を国民に購買してもらうために作ったスローガンなのだそうだ(最近、社名変更した日本の有名家電メーカーの宣伝コピーではない。念のため)。

「ナショナルなものはよい」というフレーズを思い出す理由は、今年のリーグ戦で得点王争いを演じている選手が、軒並みポルトガル人だからというわけではない。実際、ゴールランキングを見ると、トップ10にはポルトガル人は1人しかいない。もし現時点でリーグMVPを選べと言われても、ポルトガル人選手が選ばれることはないだろう。
 ではなぜ「ナショナルなものは良い」のか、第18節を終わった時点でのリーグ順位表を見てほしい。現在、5位に位置しているのが「Nacional」なのである(ただし「ナショナル」ではなく「ナシオナル」と発音する)。

 ナシオナルは、大西洋に浮かぶマデイラ島のクラブチーム。マデイラ島と言えば、最近ではクリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)の出身地として知られるようになった。大航海時代の初期に「発見」された時には無人島だったが、戦略的な価値もあり、すぐに入植が始まり、現在は26万人を超える人々が暮らす。温暖な気候が魅力で、海外からも多数の観光客が訪れている。

現在5位と好調なナシオナルについて

 この島を本拠とする、クルーベ・デスポルティボ・ナシオナルは、1910年の創設というから、ポルトガルの共和制と同じ年月を生きてきたことになる。長い歴史を誇るナシオナルだが、実は1部リーグに定着するのは21世紀に入ってから。それでも、近年の躍進は目覚ましく、すでに2度UEFAカップに出場している。
 マデイラ島の富裕層に支えられてきた、このクラブの出身選手と言えば、まず挙げられるのが「世界一の選手」C・ロナウド(ただしユースチームのみ)。さらに、現在アトレティコ・マドリーでプレーするポルトガル代表のパウロ・アスンソンも、かつてナシオナルの白と黒の縦じまユニホームにそでを通していた。

 そんなナシオナルが、今季は第18節を終えて5位と健闘している。チームの指揮を執るのはマヌエル・マシャード監督。いわゆるビッグクラブとは縁がない監督だが、ギマラエス、ブラガ、アカデミカ・コインブラなど、主に中堅クラブを率いて実績を残してきた。記者会見などでは独特な言い回しが多く、何を言いたいのかよく分からない時もあるのだが、最近は機嫌が良さそうだ。

 どちらかというと「守備的な戦術を好む」とされるマシャード監督。だが、ナシオナルは今季、ポルトと並ぶ攻撃力を誇るチームに変身した。今月13日に行われた、監督の古巣ギマラエスとの試合でも3−0というゴールラッシュを見せたように、なかなかの破壊力である。攻撃陣の中心はFWのネネ。ここまで14ゴールを挙げ、ダントツで得点ランクの首位を走っている。ネネは国産ではなく、ブラジル出身ではあるが、マシャード監督が自分の眼で発掘した逸材である。

 さらにチームの主力としては、ASローマが関心を示したとも言われるブラジル人DFフェリペ・ロペス、同じくブラジル人DFアロンソ(なぜベンフィカが、突破力あふれるこの左サイドバックを獲得しないのか不思議だ)、よく走り点も取れるMFルベン・ミカエル(22歳と若いポルトガルの新星)などの名前は覚えておいてよいだろう。
 率直に言って、ブラジル人選手に支えられるナシオナルを見ていると「国産が良い」と口にするのがはばかられるのだが、今季の「ナシオナルのサッカーが良い」ということは、自信を持って断言できるのである。そう、まさに「オ・フテボル・ド・ナシオナル・エ・ボン!」なのである。

ライバル、マリティモには相馬が加入

 そんなナシオナルだが、マデイラ島を代表するサッカークラブなのかと言われれば、実はそうではない。この島にはもうひとつ、CSマリティモという人気クラブがある。こちらも創設は1910年で、ナシオナルと同じだが、過去30年間、ほとんど1部リーグで過ごしており、実績はナシオナルよりも上。UEFAカップも、今季を含め、すでに6度経験している。ちなみに緑と赤のユニホームは、1910年10月5日に共和制となったポルトガルの国旗から取っている。

 マリティモにかつて所属した有名選手としては、FCポルトの偉大な主将にしてポルトガル代表DFとしても活躍したジョルジュ・コスタ、ブラジルからポルトガルに国籍を変更したDFペペ(レアル・マドリー)、今年からプレミアリーグのボルトンに移籍したマククラらがいる。
 マリティモは、もともとはマデイラ島の労働者階級に支持されるクラブであり(最近は階層を越える支持を得ている)、したがってナシオナルより幅広い人気を誇る。「マリティモ」とは「船乗り」や「海事関係者」を意味する言葉であり、創設者にマデイラ島の首都フンシャルの港で働く労働者が多かったことをうかがわせる。

 さらに、その人気は海外にも及び、ブラジル、アンゴラ、カボベルデなどの旧ポルトガル領諸国でもサポーターが多い。理由の一つは、マデイラ島から移住した人々が多いからである。また、マデイラ島の知事、毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい政治家アルベルト・ジョアン・ジャルディン氏も、マリティモ・サポーターを自称している。
 そのマリティモに1月末、元浦和レッズの相馬崇人の移籍が決まったというニュースを聞いた時は驚かされた。レッズ・サポーターの1人として、わたしも彼の欧州挑戦の行方がどうなるのか気にはなっていたのだが、まさかポルトガルリーグ、しかも大西洋に浮かぶマデイラ島のチームに向かうとは夢にも思わなかったのである。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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