伊達、杉山が見せた“復活劇”=全豪テニス
女子は“復活”がキーワード
38歳の伊達のプレーは、世界中のテニスファンを驚かせた 【Photo:アフロ】
だが何と言っても、今大会最大の復活物語は、かつて天才少女と呼ばれたエレナ・ドキッチ(オーストラリア)のベスト8進出。大会1週目のメルボルンは、彼女の話題一色だったと言っても過言ではない。
そして、伊達だ。今大会は予選から参戦し、3つ勝ち星を連ねて13年ぶりに全豪オープン本選出場。初戦では、21位(当時)のカイヤ・カネピ(エストニア)を相手に、4−6、6−4、6−8の大熱戦。38度に達する気温の中、3時間近くのマラソンマッチを戦い抜き、惜敗した。この伊達のパフォーマンスには、世界中のテニス関係者が驚かされた。試合後の伊達の会見にメーンインタビュールームが用意された事実が、人々の関心の高さを物語っている。
伊達が舞台裏で見せた成長の証
ある記者が、聞く。
「そもそもどうして、13年前に引退を決意したのか?」
「あのころの私は、日本人唯一のトップ10選手ということで、いろんなプレッシャーを背負い込んでいた。成績を残さなくてはならない、トップ10から落ちてはならない……。それがつらかった」
そう答える伊達の姿そのものが、13年前と現在の位相を、象徴的に物語っている。トップ選手時代の伊達は、会見や取材の場で、多くを語らないことで知られていた。英語での会見も、大きなストレスになるからと、通訳を置いて行っていた。その伊達が笑顔を見せながら、英語で冗舌に話していく。ご主人との出会いについて聞かれた際には、「彼は、実際に会う前から私のことをテレビで見て知っていたのだけれど、その時すでに、『僕はワイフを見つけた!』って言ってたんですって(笑)」と秘話を披露し、会場の爆笑を誘う場面すらあった。
試合での集中力、相手をのむような駆け引きのうまさは、杉山愛(ワコール)をして「昔のまま。むしろ、磨きが掛かっているくらい」と言わしめるほど。勝負師の激しさを維持しつつ、プレッシャーから解放された柔らかさをも併せ持つ、現在の伊達。「全仏、ウィンブルドンにも挑戦したい」と言う彼女の今後から、まだまだ目が離せない。
2009年の躍進を予感させた杉山
杉山は今年から、ダブルスのパートナーを、2年前まで一緒に組んでいたダニエラ・ハンチュコバ(スロバキア)に戻した。ダブルスで数々の好成績を残してきた杉山も、2003年以降、グランドスラムのタイトルから遠ざかっている。「もう一度優勝を目指して新たにパートナーを探そうと思った時、公私共に仲の良いダニエラしかいないと思った」と、世界の頂点を目指して再結成。その最初のグランドスラムで、いきなり準優勝という結果を残した。
中でも準々決勝で、世界1位のカーラ・ブラック(ジンバブエ)、リーゼル・フーバー(米国)組を3時間近くの熱戦で下した試合は、今後の活躍に大きな期待を抱かせる内容。ファイナルセットのタイブレークで4本のマッチポイントを凌いだ場面は、二人の気持ちが同じ方向を差していることを示していた。
もちろん今年の杉山には、ダブルスだけでなく、シングルスの活躍にも期待が掛かる。今大会では、3回戦で世界1位(当時)のエレナ・ヤンコビッチ(セルビア)に敗れたものの、打ち合いでは互角に近い内容。だがそれをしても、「自分の力を出し切れず、とても悔しい」と吐き出す杉山の言葉が、現在の好調さを裏付ける。
若手の錦織や森田あゆみの成長、そして伊達の復活に刺激を受けた33歳の杉山が、今年、躍進の1年を過ごす可能性は高い。
<了>