優勝リングなきスーパースター “Mr.Cub”とA・ロッド
A・ロッドと“Mr.Cub”の共通点
昨季のプレーオフ、試合前の始球式でファンの声援に応える“Mr.Cub”アーニー・バンクス 【Getty Images】
本塁打王のほか、首位打者、打点王の打撃三冠、MVP、ゴールドグラブ(遊撃手として)など、かずかずの個人タイトルを獲得しているA・ロッドだが、ワールドシリーズのひのき舞台にはいまだたどり着いていない。プレーオフは昨年まで計7回出場し、マリナーズ時代の1995、2000年、ヤンキースに移籍した04年にはリーグ優勝決定シリーズに駒を進めたが、最近3シーズンは地区シリーズで敗退。06年のタイガースとのシリーズでは14打数でわずか1安打、打率0割7分1厘と不振を極め、最終戦では8番降格の屈辱を味わっている。
通算500本塁打以上を記録している選手の中で、ワールドシリーズの出場経験がないのは、A・ロッドやマリナーズ時代の同僚ケン・グリフィーJr.(レッズ)など6人を数える。その中でも優れた個人成績を残し、ファンからの人気も絶大でありながらチームの優勝に縁がなかったプレーヤーの代表格と言われているのが、歴代19位タイの512本塁打を放ったアーニー・バンクスである。
優勝できないスーパースターの代名詞に
バンクスを不動のスーパースターの座に押し上げたのは58、59年の大活躍だ。58年には47本塁打、129打点の二冠。59年にも45本塁打、2年連続のタイトルとなる143打点の活躍が評価され、MVPを連続受賞。しかし、両年ともチームの勝率は5割以下で、カブス一筋にプレーしたバンクスの現役生活19シーズンで、3位以上を経験したのはたったの4回だった。メジャーリーグが東西2地区制になった69年には夏場まで首位を走っていたものの、終盤にメッツに逆転されて2位に終わっている。結局、バンクスはワールドシリーズに出場することなく、71年のシーズン終了後、現役を引退した。
通算本塁打数は引退時点でメジャー歴代8位、11回のオールスター出場も果たした栄光の選手生活とチーム成績とがあまりにも対照的だった。このため、バンクスの名前は「優勝できないスーパースター」の代名詞になった。
明るい性格の“ミスター・サンシャイン”
A・ロッドは本塁打数でバンクスを超え、守備や走塁においてもバンクスになかった卓越した能力を有している。しかし、たとえば彼が深刻なスランプに陥ったり、不用意な言動などでメディアやファンのバッシングを受けたときに見せる“この世の終わり”のような表情は、バンクスがフィールドの内外で振りまいていたスポーツ本来の明朗快活さとはかけ離れたものだ。
バンクスはユニホームを脱いでもなお多くの人々に愛されている。しかし、A・ロッドがこのままかずかずの偉大な記録を打ちたて、引退後バンクスと同じく殿堂入りを果たし、永久欠番の栄誉に浴しても、話題になるのはまず本塁打数や巨額のサラリーといった「数字」になってしまうのではないだろうか。
もちろん、A・ロッドにはまだまだワールドシリーズ出場、そして世界一にたどりつく可能性が十分にある。その点で彼は「バンクスの二の舞」を演じるわけにはいかないだろう。しかし一方で、自身のプレーやファイティングスピリットで球場に足を運ぶ人々に感動を与え、幸せな気分に浸らせるという点において、「バンクスの再来」になることを目指すべきでもある。
<了>
※次回は3月4日に掲載予定です。
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