すれ違う2人、イチローと福留

阿部太郎

待ちに待った瞬間だったが…

試合前にサングラスを取ってあいさつするマリナーズのイチロー(左)とカブスの福留=ピオリア 【共同】

 時間にして約1分あっただろうか。福留孝介がイチローと対面した。

 「本当に普通の会話です。あいさつした程度」。福留が話す通り、2人の交わりはわずかな時間だった。

 福留はおそらくイチローを待っていたのだろう。キャッチボールの最中も、イチローが現れるのを気にしていたようだ。だが、イチローは来ない。ようやく現れたのが、試合開始20分前。スタッフの運転するカートでイチローがさっそうと登場すると、福留は慌ててベンチを飛び出した。カメラマンがこの「ツーショット」を押さえるべく群がる。2人を中心とする輪は群衆と化した。

 試合後、イチローは面白いコメントを残している。

「これだけメディアがいるから(福留は)行かなきゃしょうがないよね。ただ、自分の感情で動いたというよりも、そういうところを意識して(僕のところに)来てほしいという感じですけど。そんな純粋な感じでいてほしくないな、と孝介に関してはそう思う」

 イチロー特有の言い回しなのかもしれないが、「プロ意識」ということか。ただ、福留の表情を見る限り、視線を意識したからというよりも、ただ純粋にあいさつに行ったように思えたのだが――。

イチローが認めたプレーとは?

 さて、試合のパフォーマンスについて。イチロー、福留ともに2打数無安打。打撃に関しては見せ場をつくれなかったが、守備では福留が魅せた。

 2回無死一塁。マリナーズの5番ジェフ・クレメントの大きな当たりを背走しながらのスーパーキャッチ。このプレーだけでも見せ場としては十分だったが、捕球して態勢を即座に立て直し、一塁へ矢のような送球を披露した。

 この日の福留の印象についてイチローは、「一緒にプレーしたのも、日本代表(ワールドベースボールクラシック)でやったときだけなんで、ちょっと僕には(今何かを言うのは)難しいけどね」と前置きしつつも、「(福留は)守れるからねぇ。その感じはきょう見ただけでも分かったし。最低それができるのは強みではあるわね」。

 ただ、イチローが福留に「守れる」と評したのは、ファインプレーやその後の送球ではないようだ。

「あれ(捕球後の送球)は誰が見ても判断しやすいけど、それ以外のプレーの方がそうじゃないかな」

 それ以外のプレー? この日の福留の守備機会はファインプレーを除いて2度。1つはライトオーバーの二塁打の処理。もう1つは浅いライトフライ。イチローがどのプレーに「守れる」と感じたかは分からないが、浅いライトフライで福留が「自慢の強肩」を見せつけたことを、イチローは見逃がさなかったはずだ。

 3回無死一、二塁。ライトへの浅い飛球。通常なら、普通に送球すればいいところを、福留は中継に入った選手へかなり強い球を返した。イチローは試合後、こうコメントを残している。

「使う側(首脳陣)としては(福留に対して)日本での印象もないだろうし、しっかり(守備で)示しておかないと」

求められるもの、立場の違い

 実績十分のイチローに対し、アピールしなければならない福留。もちろん立場に違いはあるが、イチローが海を渡ったときと今の福留では、環境が大きく異なる。そのあたりをイチローは、「アメリカに来るモチベーションってのは、明らかに僕と違う。来るべくして来たという雰囲気があるので、僕とはまったく違いますからね」。

 イチローの1年目は、オープン戦からレギュラーシーズン同様の結果を催促された。しかし、福留に関して言えば、結果がほしいことに変わりはないものの、それよりもストライクゾーンや投手の球に関する「確認」に重きを置いている。

 この日も結果は出なかったが、打席の中でいろいろと試している。それはオープン戦開幕から4試合を通して一貫している。前日も無安打に終わったが、「自分の中でやりたいこと、見るのか打ちにいくのかというところで、自分の思っている通りの感覚ではあるので、その辺は心配してないです」。

 「常に最初の1、2打席は球を見て、ストライクゾーンや球質などいろいろと確認しよう」と考えていて、積極的な仕掛けは今のところ3打席目にしか見られない。

 ただ、このまま結果が出ないようでは、焦りを感じるはずだ。球団が太鼓判を押した評価を裏切るわけにはいかない。まだメジャーでの実績がないルーキーとはいえ、カブスファンの期待をも一身に背負っているのだから。

<了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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